長編 | ナノ

16

オーズの進行を阻んだはいいが、そのせいで最前線に追いやられてしまった。

こちらに見向きもせずオーズを、仲間の死体を乗り越えて侵攻を続ける海賊たちを適当に薙ぎ払う。無論、すべての海賊どもを切り捨てようなどとは考えていない。そこまで懇切丁寧に戦ってやるほど、ネアは海軍に世話になっていない。

ほとんど手遊びのように剣を振り回していると、前方から明らかにこちらを狙っている一団が現れた。

「フフ、手を出すなよ、ネア。」

剣を投擲しようとしていたネアを、ドフラミンゴが片手で制する。何か理由があるのかと尋ねようとしたが、その答えはすぐに現れた。

「ドフラミンゴ、よくもオーズを…!」

軽々しく父親の名を呼び捨てにする海賊に、ネアは眉をひそめた。どこの誰か知らないが、失礼な。
無駄に振りの大きい斬撃を避け、やはり私が、と一歩足を踏み出すが、唐突に敵の動きが止まる。これは。

「どうした?13番隊隊長、"水牛アトモス"」

どうした、とは白々しいことだ。自分の能力で止めてるくせに。
父親の能力を知っているネアには、彼の今の状態も、これからどうなるかも予測がついた。最も、敵である彼らからすれば、何らかの能力であるとは想像がついても、これからどうなるかなど思いもよらないだろう。父親の能力は応用が効く上目に見えなくすることもできる。なかなか卑怯だ。

「来るなァーー!!」

"水牛アトモス"が、悲鳴に近い声を上げ、近寄ってきた部下を切り捨てた。自由の効かない体が味方を切り刻むというのはどういう気分だろうか。そのまま剣を振り回し、アトモスは来た道を戻り始める。味方も一人ぐらい、あの剣を受け止めてやればいいのに。

「酷いことをしますね」

絶叫しながら、己の部下を一人残らず切り刻んでいくアトモスの背中を眺める。ネアも一度あの能力を喰らったことがあるが、他人に体を動かされるというのはなかなか気持ち悪いものだ。

「そりゃあお前の父親だからな。酷いこともするさ。」

「え、どういう意味ですか。」

尋ね返すが、父親は答えない。察しろ、ということだろうか。しかしまるで私も酷いことをしたような言い方…酷いこと…したのかも。

しかし、とネアは振り返る。味方を切り終わったらしいアトモスが、絶望に泣いていた。
流石に父親ほど酷いことはしていないのではないだろうか。能力の違いはあるにしても。

「ネア、行くぞ。」

そんなアトモスには目もくれず、父親は次の戦場を目指して歩き出す。

「止めは刺さなくていいんです?」

まだ生きているのに、と疑問を呈するが、父親は鼻であしらう。

「どうせ海軍の手柄になるんだ、わざわざ俺たちがやる必要もねえだろう?」

それよりも、面白いことが起きそうだ。

父親はそう言って空を見上げる。その視線をたどると、何かが上空から落ちてくるさまが見えた。

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