長編 | ナノ

15

どうにもふざけた体格の者が多すぎる、とネアはため息をついた。
父親の周辺にも体格が大きい者が多く、目も慣れたつもりだったが、6mを越す七武海に巨人族、国引きオーズの子孫まで出てきては驚きを通り越して呆れる。父親はまだまだ大人しい方だったのだ、と3mを越す長身を見上げながらネアは心の中で呟いた。

件のオーズの子孫―周囲からはオーズと呼ばれているようだ―は、砲撃の雨あられもものともせず正面の処刑台目指し直進してくる。もはや突撃といったほうが的確かもしれない。
そして幸か不幸か、ドンキホーテ父娘が配置されたのはちょうどオーズの進路真ん中だった。

「ありゃあこっちに来るなあ?」

心底楽しそうな父親の声を聞きながら、ネアは背の剣に手をかける。さて、どこを狙おうか。目標が大き過ぎるのも困ったものだ。

王下七武海、ドンキホーテ・ドフラミンゴの娘ここにありと知らしめるために、ネアはオーズを殺す算段をしていたのだが、どうやらその機会は奪われそうだ。先程から何やら妙な音が、隣の"暴君バーソロミュー・くま"の方から聞こえてくる。

「"熊の衝撃"」

随分と可愛らしい手のひらから、無慈悲の一撃が放たれる。衝撃にオーズは大きく体を震わせ、ついで激しく吐血した。この様子では内臓がいくつか破裂したのだろう。腹部の動脈も影響は免れないはずだ。
既に命はつきかけているが、それでもオーズは諦めないらしい。せめて七武海の一人は潰しておこうという魂胆だろうか。大きな手のひらに、上空が陰った。

「―行くぞ、ネア。」

「はい、お父様。」

父親に足を抱えられ、ネアはオーズを飛び越えた。ちらりと見えた空は薄曇り。父親の能力を発揮するには十分すぎる、良い天気だ。

そのままオーズの背後に回り、ネアは一旦父親から距離を取る。
そして、その背に負った剣を正確に狙いを定め、投擲した。


地に足をつけると同時に、投擲した剣が手元に戻ってくる。刃を痛めないように丁寧に鞘に戻す。
背後で、何かが倒れる音がした。
振り返ると、両足の膝から下を失い、崩れ落ちるオーズ。どうやら、ネアの狙いは正解だったらしい。以心伝心とはこのことか。
少し離れたところに立っていた父親に近寄ると、よくやった、と頭を撫でられた。でも。

「腕を切り落としたほうが良かったでしょうか…」

吐血し、足を失ってもなお、オーズは処刑台に手を伸ばす。その光景を見て、ネアは後悔した。射程という概念のない投擲剣を持つネアならば、腕を切り落とすことも可能だった。
だが、そんな娘の様子を片隅に、ドフラミンゴは愉快そうに笑う。

「残酷な女だなァ、ネア。救いの手を切り落としちまうのか。」

オーズの背に黒い影が生える。ネアがどこを切り落とそうと、オーズの運命は変わらなかったらしい。

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