長編 | ナノ

14

もし、あそこにいるのがポートガス・D・エースではなくドフラミンゴだったら。
ネアはなんの迷いもなく救出に向かうだろう。たとえ己の命と引き換えであっても。
それはドフラミンゴにも言えることだ。いや、彼は流石に己の命を捨てるようなことはしないだろうけど。

しかしそれは彼らの間に血縁という唯一無二の繋がりがあるからであって、白ひげのように己の部下だから、という無差別の理由ではない―いや、先ほど明かされたポートガス・D・エースの身の上を考えると、これは特例措置なのかもしれないが。しかし、もしファミリーの誰かが公開処刑されるとして、たとえその誰かが幹部級であっても、勝てる見込みがないのならドフラミンゴは実行しないだろう。たった一人のために戦力を使い果たすわけにはいかないのだ。特に、これから先のことを考えると。

そう考えると、実に白ひげという男の考えることが分からない。たかだか一人の部下のために、一体どれだけの犠牲を払うつもりなのか。それに見合う戦果を―それこそ海軍本部の壊滅でも目論んでいるのだろうか。

ネアは父親の手を握りながら、海の彼方から数多の帆船が現れるのを眺めていた。七武海が配置されたのは最前線もいいところだ。所詮は海賊だから潰しても問題ないと軽んじられているのか、逆に実力を買われているのか。

「海賊王の息子を海賊王に最も近い男が取り戻しにくるなんざ、どんな喜劇だ?」

湾内に、それこそ鯨が潮を吹くように、巨大な白い帆船が現れる。白ひげ海賊団の旗艦、モビー・ディック号。
その船首に人影を見つけ、ネアは目を凝らす。大きい。父親を見上げるのでさえ文字通り骨が折れるというのに、父親と同等かそれ以上あるのではないだろうか。
あれが―白ひげ、エドワード・ニューゲート。

「フフッ、ネア、怖気づいたか?」

からかうようにかけられた声に、まさか、と返す。流石に勝てる気はしないが、尻尾を巻いて逃げ出すなどという失態を見せるはずもない。ネアは戦うために生まれてきたのだから。

「お父様、"あれ"を使っても?」

「フフ、ダメだ。」

笑顔で拒否される。仕方がない。"あれ"を使ったほうが機動力が上がっていいのだが。

白ひげが能力を発動する。潮が大きく引く音がした。津波の予兆だ。

「さて、お父様。私はどうしたら?」

視界に迫る津波を捉えながら、冷静にネアは戦術を確認する。どうせあの津波ぐらい、海軍がどうにかするだろう。敵にも能力者はいるが、同時に味方にもいる。それに津波でせっかくの布陣を壊されては堪らないだろう。

「まずは俺に着いて来い。途中で俺は用があるから抜けるが、お前はずっとここにいろ。刃向かう敵は全て倒せ。」

単純明快な指示に、ネアははい、と返した。
さあ、戦争の始まりだ。

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