13
穏やかな海に似合わない、重武装の軍艦が次々と湾内を埋めていく。粛々と下船する海兵たちは、遠目では白い烏合にしか見えない。
海軍本部の一室、その窓辺から、紅茶の入ったカップを傾けながらネアはマリンフォードを眺める。自然の島であろうに、人の手が加えられすぎて目に痛いほど白一色だ。なるほど、海兵は迷彩を施しているのか。
「結局、海兵はどれくらい集まるんです?」
先程からずっと新聞を読んでいる父親に尋ねると、10万だ、との声が返ってくる。10万。多すぎるのではないだろうか。過剰な数字はその分白ひげへの恐れを表しているように見えた。
「お前はこの戦争をどう見る?ネア。」
新聞から目は離さず、父親が尋ねてくる。どうって、どういう。
「たった一人の海賊の公開処刑のために、海軍は全世界から10万もの兵を集めただけでは飽き足らず、七武海まで投入しやがった。随分な措置じゃないか。え?」
父親は楽しそうだ。このところずっと。これから訪れるであろう歴史の転換点、世界の変革の中心に立てるのが余程嬉しいのだろう。しかし、父親が目指す先を考えると、もっと悪い方向に事態が流れそうで恐ろしい。
「いったいあの男がなんだってんだろうな?」
あの男。明日処刑されるポートガス・D・エース。白ひげ海賊団2番隊隊長。
「わざわざ公開処刑するんですから、ただの海賊ではないのでしょうね。」
確かにビッグネームだが、それにしても対応が異常だ。そもそもなぜ処刑なのか。七武海でありながら国家簒奪を謀ったクロコダイルでさえ処刑などされなかったというのに。
「フフッ、案外ヤツは本当に白ひげの息子だったりしてなあ!」
「でも"D"の名の有無がありますよ。」
白ひげ、本名エドワード・ニューゲート。彼の名に"D"は入っていない。
だから血縁ではないのではないか?と推測してみると、何故か父親は黙り込んだ。
「お父様?」
ドフラミンゴは新聞を乱雑にたたむと、投げ捨てるように手放した。
「そうか。あいつも『D』か…!」
あいつ、というのはポートガス・D・エースのことだろう。しかし『も』とはどういうことだ?そういえば、シャボンディ諸島で出会った麦わらのルフィ、彼も名前に"D"が入っていた。
「ネア、知ってるか?海賊王の名前。」
いきなりなんだと言うのか。突然そらされた会話に困惑する。しかも海賊王の名前なんて。曲がりなりにもネアは海賊なのだ。それくらい知っている。
「ゴールド・ロジャーでしょう?」
かつて偉大なる航路を制覇し、そして処刑された男。
そう答えると、ドフラミンゴは口角を釣り上げて笑った。
「フッフッフ…違う。あいつの名前はゴール・D・ロジャーだ。」
"D"。まさかの事実にネアは目を見開いた。一体、"D"とは。
「何なんです?"D"って。」
モンキー・D・ルフィ。ポートガス・D・エース。そしてゴール・D・ロジャー。共通する"D"の名。
「フフッ、何なんだろうなあ…俺が小さいとき、行儀の悪い子は『ディー』に喰らわれてしまうぞと言い聞かされたことはあったが」
小さいとき、ということはマリージョアでのことか、と問いただすも、父親は笑ってはぐらかした。知っているのか知らないのか、どちらにせよ、これ以上話してはくれないらしい。
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