長編 | ナノ

11

少女が去り際に告げた、ドンキホーテの一言に、合点がいったナミは思い切り叫んだ。

「えーー!!ネアって、七武海のドンキホーテ・ドフラミンゴの娘だったの!?」

ただファミリーネームが被っているだけ、なんてことはないだろう。電話越しに、娘、招集という単語が聞こえた。海賊か、と尋ねられた時の、ネアの曖昧な答え方も今となっては分かる。政府公認の海賊をそこらの海賊と一括にはできまい。
―最も、彼女が言いよどんだのは父親が持つもう一つの顔のせいでもあるのだが。

「え、あいつ七武海の娘なのか?」

まだ納得がいってないらしいルフィに推測を伝えようとするが、横槍が入る。

「―なんだ、知らずに連れ回してたのか?」

不敵な笑みを浮かべ、トラファルガー・ローは言う。

「あいつが護衛もつけずにお前たちと一緒にいるから、てっきり人質にでも取ってるのかと思ったんだが。」

人質という単語に反応する。そうか、彼女はそう扱われることもあるのか。

「お察しのとおり、あいつは王下七武海の一人、ドンキホーテ・ドフラミンゴの娘だ。さっき電伝虫で話してた相手がドフラミンゴだ。」

「へー、知らなかった!有名なのか?」

麦わら屋、とローが視線を移動させる。先ほど少女から名を聞き出した男は、さほど重大だと受け止めていないらしい。

「それは父親の方か?それともドルシネアの方か?」

「ドルシネアの方だ!有名なのか?」

おれは知らなかったけどなー、と麦わらが言う。確かに、知らない人間のほうが多いだろう。ローが知っているのは、かつて彼らと共にいたからだ。

「いや、全く知られてねえ。なにせ滅多に出てこないからな。」

昔からそうだった。ドフラミンゴはたった一人の娘をそれはそれは大事に育てていた。それは彼の生い立ちゆえでもあったし、彼が娘に求めた質ゆえでもあった。
ただ、ドフラミンゴが七武海入りを果たす前に、ドルシネアは父親と揃って手配されたことがあるあたり、一度も表に出たことがない、なんてことはないのだろう。重要な局面にこそ出す、ドフラミンゴが持つ絶対的な切り札であると、ローは推測している。その強さは知る由もなかったが、今日垣間見ることができた。どうやら能力者ではなさそうだが、持ち主の意志に従って飛翔する剣とは、厄介なものを持っている。

いずれローが、彼の恩人の仇を討つとき、最大の障壁となるのはあの娘だろう。

「でも、母親は誰なのかしら。ドフラミンゴは未婚のはずよ。」

ロビンの疑問に、ローは知らねえ、と答えた。あの娘は、最初からドフラミンゴのそばにいた。母親など影すら見たことがない。だが、そこらの愛人が産んだ子にしては、ドフラミンゴの愛情が過剰だ。母親なんて文字通り存在しない可能性もありそうだ。なにせドフラミンゴは、シーザー・クラウンとの繋がりもある。

にわかに外が騒がしくなった。追求はここまでだ、とばかりに立ち上がる。今はこの状況を打破することが最優先だ。

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