長編 | ナノ

10

デリンジャー。闘魚の半魚人で、ディアマンテ軍に属する、ファミリーの一員だ。
彼(彼女?)はネアと同い年で、ベビー5ほど吹き飛んだ性格もしていないということでネアの護衛に付くことも多かったのだが、今日ばかりは別の仕事があり、その任から外れていた。
だが、今目の前にいる。

「え、デリちゃんお仕事は?終わったんですか?」

「そうなの、早く終わらせたんだけど…やっと若様と合流できたと思ったらここのディスコを始末してこいって、しかもネアは行方知れずだしもう大変だったのよ!」

始末、の一言に、思わずデリンジャーの姿を眺める。よくよく見ればその足には血がついていた。十中八九返り血だ。ということは、私は落札額の10億を払わなくて済むのだろうか。

いや、それよりももっと大きな問題がある。こちらへ歩み寄ってくるデリンジャーの手にはピンクの電伝虫。受話器が外れているあたり、デリンジャーが始末報告をしたままなのだろう。そしてその一報を受け取ったのは、間違いなく父親だ。それも不機嫌な。

デリンジャーに電伝虫を押し付けられる。どうやら状況報告は自分でしろとのことらしい。う、と喉から音が押し出された。

恐る恐る、受話器に口を近づける。
「…お父様、ネアです」

『…フッフッフ!よォ家出猫、元気か?』

うっ。家出猫扱いされた。

「家出じゃないです成り行きです。」

さり気なく麦わらの一味のせいにしておく。元凶、という点では間違っていないはずだ。
視界の端で、トラファルガー・ローが父親の声に眉をひそめるのが見えた。

『まァその成り行きとやらは後でゆっくり聞いてやる。今デリンジャーと一緒にいるんだな?』

その場しのぎだが追求を免れたことにほっと一息つきながら、肯定を返す。不機嫌とはいえ、最上級ではないらしい。

『ならそのまま二人で帰って来い。デリンジャーが入れたんだ、出られねえことはないだろ。』

おそらく父親にもこの事件は伝わっているのだろう。大将が出てくる前にとっとと帰ってこいとのお達しだ。この先のルーキーたちの活躍を見れないのは残念だが、ネアの立場を考えるとここに居座ってもいられない。それはネアも分かっていたし、そう行動しようと思っていたところだ。

「はい、分かりました。」

『フフ、聞き分けのいい娘は好きだぜ、ドルシネア。なるべく急いで帰ってこい。招集が入った。』

はい、と短く答えて受話器を置く。気づけば周囲の視線がネアに集まっていた。

「行くのか?」

麦わらに尋ねられ、ええ、と返す。

「そっかー。お前、ナミたちと一緒にいるしてっきり新しい仲間かと思ったんだけどな―」

のんきな一言に思わず苦笑を浮かべる。一緒にいたから新しい仲間とは、彼は一体どんな調子で仲間を増やしていったのだろうか。

「ごめんね、迷惑に巻き込んじゃって…」

ナミに謝罪されるが、いえ、と返す。

「こちらこそ途中で抜けて心苦しい限りです。皆様のご武運をお祈りしております。」

大将相手に彼らがどう立ち回るのか、ああ、気になる。新聞で報道されるだろうか。

「そういや、お前、名前なんて言うんだ?」

そういえば麦わらには名乗っていなかったな。そう思い当たり、戦闘で多少汚れた衣服を正す。私の名前。お父様からの初めての贈り物。この世で最も尊い名前。

「ドンキホーテ・ドルシネアです。それでは皆様、また会う日まで。」

身を翻して、デリンジャーとともに裏口へ走り出す。数瞬置いて、後ろから絶叫が聞こえた。

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