長編 | ナノ

9

周囲はレイリーが手も触れずに敵を一掃したことに驚いているようだが、私としてはそもそも彼がここにいることが問題だ。

レイリーが出てきたのはステージ裏、つまり競りにかけられる前の奴隷が留め置かれる場所だ。そこから出てきたということは、彼は奴隷として捕まっていたということ。

何よりたちが悪いのは、彼が捕まるのはこれが初めてでなく、もう20回は超えているということだ。捕まるたびに店の金を奪い、観客の財布をすり、競り落とした相手からも金を強奪する。そのたびに店にクレームが入り、オーナーである父親の機嫌は悪化した。今では彼が商品に入っていると知るだけで不機嫌オーラを醸し出し始めるほどだ。なぜ彼もわざわざ捕まるのか。

「レイリー…あなた、捕まるのもいい加減にしてください。」

不機嫌な父親を思い出し、はずみに軽く痛みだした頭を抑えながらそう呟くと、どうやらステージ上のレイリーにも届いたらしく、彼はこちらを見て目を見開く。

「おやお嬢さん。今日はあの美女は一緒でないのかね?」

「ベビちゃんは失恋まっただ中です。放っておいてあげてください。」

彼と出くわす度に伴っていた、使用人を思い出しながら応える。いや、重要なのはそこではない。彼が今の今まで捕まっていたという事実だ。

「あなたが捕まるとお父様が不機嫌になるんです。なぜいつもいつもご丁寧に捕まっているんです?あなたなら逃げるも容易でしょう。」

「はは、私がそんな強いと知れては困るだろう?」

いつも買われた先から逃げ出すくせに何を言っているんだ。
心の中で悪態をつく。本当に困ったおじいさんだ。

「ネア、あのじいさん知ってるのか?」

ハチに包帯を巻くチョッパーに尋ねられる。知っているというか、迷惑をかけられているのだと答えると、お前苦労してんなと労いの声をかけられた。

その迷惑の根源であるレイリーは、麦わらのルフィを知っているらしい。冥王がその存在を知っているとは、一体このルーキーは何者なんだろう。

レイリーはルフィに対し一方的に語りかけると、今度は人魚の首輪を外そうと試みる。そういえば彼自身の首に首輪は確認できない。あれを外す手段を持っているのか。だとすればそれは大きな脅威に―いや、今の時点で十分脅威だ。

彼がどのような手段を以って首輪を外すのか、じっとステージを注視する。動体視力は人並み以上だと自負している。

レイリーは人魚に安心するよう語りかけるが、人魚は恐怖に打ち震えている。カウントが早まり、魚人が絶叫する。

そして、レイリーは首輪を投げ捨てた。

「キャー!もう、いきなり何なの?」

とたん、耳馴染んだ声が聞こえ、思わず出処を探る。

特徴的なハイヒールの音が会場に響いた。

「…あれ、デリちゃん?」

「えっ?…あっ!!もうっ、ネアったら!!探したわよ!」

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