夢 | ナノ

太陽のジェラシー 4話

 気づけば入学して一か月経っていた。最初の不安が嘘のように、私は鳴ちゃんのいない生活に慣れてきていた。もちろん、寂しさがないわけじゃない。ただ新しい生活は慣れるのに手がいっぱいで、寂しさばかりにとらわれていられない現実があったからだ。

 鳴ちゃんは自分はマメじゃないくせに、私にはマメに連絡するように要求する。私の毎日のメールに返事があるのは2回から3回に1回くらいの割合だ。初めての寮生活に野球漬けの毎日が、どんなものか想像もできないけれど、きっと鳴ちゃんも新しい生活に慣れるのに大変な思いをしているのだろう。でもそれ以上に周りの人が鳴ちゃんのわがままっぷりに振り回されて大変かもしれないけど。なんとなく想像できてちょっと笑ってしまう。

「ニヤニヤしすぎ〜」

 お姉ちゃんの言葉に我に返る。鳴ちゃんのこと考えてニヤニヤしていたのをごまかすように

「明日、私服でいいよね?」

 明日の服の相談をしているお姉ちゃんたちに聞いてみた。もっともそんなごまかしなんて通用しないのもわかってるけど。だってお姉ちゃんたちだって嬉しくてニヤニヤしてるもん。

「稲実に青道の制服で行く気?」
「せっかく鳴ちゃんの応援に行くのに、かわいい格好していかなくてどうするのよ」

 二人はあきれたように、ため息交じりに私を見た。

「葉子はこのワンピにしたら? 前にあげたデニムのシャツ上から着たらかわいいし」
「じゃあ、私はこっちにしよう。葉子はそのワンピにこの帽子ね。日焼け対策しないとね〜」

 と、ワンピースと帽子を渡される。自分たちはまだまだ、あれだこれだと鏡の前で服を合わせている。お姉ちゃんたちも明日を楽しみにしていてウキウキしているのがわかる。

 明日は鳴ちゃんが高校に入って初めての練習試合が稲実である。Bチームだけど投げるよと鳴ちゃんから連絡があったから、うちも成宮家も大騒ぎだ。

 稲実には野球専用のグラウンドがあって、練習試合もギャラリーが多いらしい。私たちが応援に行っても問題ないと鳴ちゃんも言ってたし、久々に両家総出で応援だ。

 お姉ちゃんに渡されたワンピースと帽子をもって、自室に戻ると、携帯が着信を知らせていた。鳴ちゃんからだった。慌ててかけなおす。電話に出ないとすぐすねるから、なるだけ早くかけ直さないと、なかなか機嫌をなおしてくれない。

「もー、何してんの、さっきかけた」

 ワンコールで繋がると鳴ちゃんのすねた口調が聞こえてきた。くちびるをとがらせた、すねた表情の鳴ちゃんが頭にぱっと浮かぶ。

「ごめん、明日の服をお姉ちゃんたちと選んでた」

 そう言うと、しばしの沈黙。自分のためだとわかってニヤニヤしてるのだろう。

「ふーん、じゃあ、まあ、いいや」

 声のトーンは機嫌のいい感じになっている。単純だけど、そういうところが鳴ちゃんらしくて、変わってなくてほっとする。

「それで、何かあった?」
「ううん。べつに。明日来んのかなって思っただけ」
「行くに決まってるよー。もうお姉ちゃんもお父さんたちもテンション上がりすぎだもん」
「へっへー、あ、あれ持ってきてって頼んどいて」
「ゼリーでしょ。お姉ちゃんもう作ってたよ」
「やったー」

 料理が得意なお姉ちゃんの特製ゼリーは鳴ちゃんの大好物だ。言われなくてもお姉ちゃんは準備していた。みんなが明日を楽しみにしている。

「久しぶりだし、楽しみ」
「まぁ、見ててよ。高校デビューばっちり完投完封だから」

 相変わらずの自信満々の鳴ちゃんの言葉に心がウキウキする。鳴ちゃんはいつだって、自信満々だ。もちろん結果が伴わないことだって少なくない。マウンドで悔しさからか号泣しながら投げていたことだってある。プレッシャーだってかかるのに、まるで自分を鼓舞するかのように大きなことを口にする。そして才能だけに頼らずに努力もしている。練習嫌いって言いながらも。それを知っているから私もお姉ちゃんたちも親たちも、そんな鳴ちゃんが大好きで心から応援しているんだ。

 頑張ってね、と私が言えるのはいつもそれだけだ。鳴ちゃんはきらきらと太陽ような自信満々の笑顔で任せとけって左手を握りしめて、空高く突き上げる。その姿はどんどんたくましくなっていって、私は置いて行かれるんじゃないかと不安でいっぱいになる。だからいつも鳴ちゃんのユニホームを少しだけつかんで、振り返ってくれることを確かめる。まだ届くところに鳴ちゃんがいてくれると。大好きな鳴ちゃんが、大好きな鳴ちゃんのままでいてくれることを望んで。


20160414



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