夢 | ナノ

高2 年越し詣り

隣を歩いている暖かい一也くんの手が私の冷たい手にちょこっと触れた。冷たい手が恥ずかしくて、両手を体の前で袖に隠すようにして組んだ。

「ごめんね」

冷たい手が触れたことを謝ると、一也くはきょとんとして私を見た。一也くんは時折こういう顔をして私を見る。

年越し参りが初めてのデートで、夜の11時を回った今、どんなに暖かい格好をしたって寒さはしのぎきれない。そのくらいわかっていたのに、私は手袋をしてこなかった。せっかくだからと、かわいいネイルをしたからだ。だって、初めてのデートになるんだし、少しでもかわいくしたかったから。

「え、と。なんで謝んの」

理由がわからないといった顔で一也くんは少し笑う。私は自分の両手をさらに袖で隠した。もうかわいくしたネイルなんてどうでもよくなっている。冷たいと思われたことがただ恥ずかしい。それはそのまま、初めてのデートで浮かれている自分が恥ずかしいのと相まっている。

「手、冷たかったでしょ」
「あー、そういうこと、ね」

一也くんは私の言葉に納得してたようにつぶやくと、すぐに納得いかないような顔をして頭をかいた。

「じゃあ、なおさら」

そう言うとと私に手を差し出した。手を見て、一也くんを仰ぎ見る。一也くんは私の視線を感じると逆の手で自分のマフラーを鼻先まであげる。

「手、つながね?」

私から視線を外して目線だけ上にしている一也くんの、マフラー越しのくぐもった声は、言葉の軽さとはうらはらに真剣な色をおびていて、胸に響いた。

いいの、かな。私の手。一也くんにつながれて、いいのかな。どんなにネイルをかわいくしたって、こんなに冷えてる手を。

私のいくばくかの逡巡に一也くんは向こうをむいたまま、私の体の前で袖に隠していた手を引き出すようにとった。手に一也くんの暖かさが伝わる。

ぎゅっと痛くないけど、しっかりと包み込むようにしてくれる一也くんの手に心がいっばいになる。息、するのがつらいくらい。

「イヤじゃ、ねぇよな」

そっぽを向いたまま、確認するような小さなつぶやきに私はうんうんと頷く。二回も頷いちゃって、それもまた恥ずかしい。

ゆっくりとでも確実に私の手には一也くんの温もりがじんわりと広がっていく。一也くんが優しいのは知ってた。その優しさに心が暖かくさせられたことは今までだって、何度もあった。でも一也くんの体温を知って、浮き立つほど、心から好きだという気持ちがあふれでてとまらない。

神社に近づくほどに人が増えてくる。その人波を離れないように私たちはしっかりと手をつないだまま来年に向かった。




20150107


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