第5話〜これに触っていいのは俺だけだ!
最近、花沢はよくオレに話しかけてくる。
「伊佐敷くん、伊佐敷くん」
そう言って、オレの制服の端をつまむ。オレが相手をしている間もそのつまんだ指は離れない。その行為はオレには謎だったけれど、嫌ではなかった。むしろうれしいくらいだった。まるで制服に自分の血が通っているのかと思うほど、つままれた先から熱くなっていくようだった。
ふと、逆もありかもと考えがよぎる。
オレが花沢に同じようなことをしたら花沢もオレが今感じているようなことを感じるのだろうか、と。
けれど、どこを触ればいいのか悩む。中途半端に手を出したら痴漢扱いされかねない。…頭をなでるくらいならかまわないだろうか。花沢の頭は何と言うか無性にこねくり回したくなる大きさだった。気持ちを落ち着かせるように一息吐いて、花沢の頭に手を伸ばした。けれどオレの手が花沢の頭に触れることはなかった。オレよりも先に二岡が後ろから花沢の頭に肘をついたからだ。
「花沢、それ、オレにもちょうだいよ」
二岡は頭に手をのせたまま、花沢の持っているスナック菓子の袋を後ろからのぞきこむ。花沢は二岡の行動に驚くこともなくハイといつもの笑顔で差し出している。
…なんだ、なんだ?
胸の辺りにもやもやとすっきりしないものが沸いてくる。無意識に花沢の頭の上にのっている二岡の肘を思いっきりはらった。二岡はもちろん、花沢も目を丸くしてオレを見た。
「伊佐敷?」
「…んな」
「は?」
「コイツに触んじゃねぇっつってんだよ」
グイっと花沢を引き寄せる。片腕で抱き寄せた花沢はやわらかくて気持ちいい。他のやつに触らせてやるなんて絶対にいやだ。
「…おまえら付き合ってんの?」
「え…いや、付き合っては…ない」
「じゃ、そんなこと伊佐敷が言う権利はないんじゃねぇの」
ジロリと二岡はオレをにらむ。もしかしたら二岡は…花沢が好きなのかもしれない。オレだって…。オレだって、何だ?
オレは花沢のことが好きなのか?
だから花沢のことが気になって仕方なかったのか?
だから他の男が花沢を触るのがいやなのか?
花沢がかわいくてかわいくて仕方なくて、触りたくて仕方ないのも、最近のやばい夢は花沢だったりするのも…全部好きだからか?
自分の中で行き着いた答えに驚いた。自分で好きだと気づいていなかったマヌケさになによりも驚いた。
片腕で抱き寄せた花沢はぴくりとも動かない。驚いて固まってしまっているのか、嫌がるそぶりすら見せない。二岡はジロリとオレをにらんだままだ。二岡の言う通り、オレが花沢のことで口を出す権利なんてこれっぽちもない。ない、けれど。
「…しょーがねーだろ。コイツが他の男に触られんのがヤなんだからよ」
フンっと居直ると二岡は唖然とする。すると、花沢を抱きかかえた方のシャツが引っ張られる。見れば花沢は真っ赤な顔してオレを見上げていた。
うまそう…
のどが鳴る。こんなうまそうなもの、他のヤツに渡してなるものか。さらにぐっと腕に力がはいる。
「あのね、私もね、伊佐敷くんじゃなきゃ、ヤ、なの」
花沢は途切れ途切れにそう言うと、きゅっとオレの胸のシャツを握り締めた。その言葉としぐさに、オレは心も体も昂らせる。今、教室で、人目がなければ…どんな行動に出るか想像に難くない。
二岡はちぇーっと悔しそうに呻いてオレたちから離れていく。勝ち誇ってその背を見送る。周りのやつらが興味深々とオレと花沢の様子を伺っているのがわかる。
そんなやつら全員に胸を張って言ってやりたい。
オレがどれほど花沢のことが好きか、わかるもんなら、当ててみな?ってな!
end
Guess How Much I Love You「どんなにきみがすきかあててごらん?」
雄叫び系お題より
「嗚呼-argh」20070723