夢 | ナノ

みえるんです 後編

倉持は2年の伊佐敷と3年の仁志と同室になった。上級生の仁志の方が伊佐敷に遠慮しているように倉持は感じた。けれどそれは伊佐敷が一軍で仁志が二軍という実力世界以上に伊佐敷の体質も大きく関係しているようだった。

「霊感が強いんスね」

伊佐敷は寮にきた初日に倉持が祖母を連れてやってきたことに気づいたのだった。伊佐敷は特に言及しなかったが、倉持は伊佐敷が「ばぁちゃん」と言ったことで、きっと半年ほど前に他界したばかりの祖母だろうと思った。そして思うと同時に怖さもなくなった。これでも肝は据わっている方だ。部屋に入って、落ち着いてから伊佐敷に話しかけたのだった。

「あぁ。でもあんま悪ぃのは見えねぇんだ」
「良い、悪いってあるんスか?」
「あるよ」

倉持の疑問に伊佐敷は即答する。そのまま黙ってしばらく窓の外を見ていた伊佐敷は突然手を振った。何が出たんだと倉持はギョッとした。と同時に部屋の隅にいた仁志はまたしても数珠と十字架を手に拝みだした。

「お前も笑って手ぇ振れよ」

ほら、とぐいっと倉持を窓際に引き寄せる。わけがわからないまま、倉持は無理やり笑顔を作って何もない空に手をふった。

「GSGのお迎えがばぁちゃん連れてくぜ」

伊佐敷の言った言葉の中には理解できないものもあったが、お迎えという言葉の意味はわかった。そして倉持の胸が痛んだ。今まで成仏しなかったのはひとえに自分のことが心配だったのだろうと思ったからだった。そして感謝の言葉を心の中で繰り返した。

「感謝しろよ。お前に徳を置いてってくれたんだぜ」
「徳?」
「よく知らねぇけど、知り合いの坊さんが言うにゃ、人が生きていくのに大事なもんなんだってよ。お前、ばぁちゃんが死ぬまで運悪かったり、誤解されたりすること多かったんじゃねぇの?」

確かにそうだった。クラスでも部活でも家庭でも。どうしてと思うほどに悪い方へところがることが多かった。その結果が問題児のレッテルだったのだ。そして、言われて気づく。祖母が死んでから、行く高校もないと思っていたら高島からスカウトがきたし、不可抗力で自分が傷つけた相手と和解したり…

「ばぁちゃんが悪いもん追い払って、徳を残してってくれたんだよ」
「…そっか」
「徳って磨かなきゃいけねーらしいぜ」
「どうやって磨くんスか」
「オレもわかんねぇけど、まぁ、心構えの問題じゃね?挨拶はちゃんとするとか食いもんは残さねぇとか、オレが心がけてるのはそんくらいだけどよ」

そう言ってほんの少し肩をすくめて伊佐敷は笑う。その姿に倉持は「徳」についてはよくわからなかったけれど、何となくこの人はいい人なんだろうなと漠然と思った。

伊佐敷はまだ目を細めて空を見上げている。今月はらぶりー強化月間か、とよくわからないことをつぶやいた。

20070808
GSGも入れてみました(笑)


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