夢 | ナノ

みえるんです 前編

うららかな春のこの日、千葉から来た一人の少年が名門青道高校野球部、その寮の自室となる部屋の扉の前にいた。少年の名前は倉持洋一。千葉ではちょっと名前の知れられた問題児だった。

倉持はそんな自分をを拾ってくれた学校の野球部に、どんな奴らがいるのか少なからず楽しみだった。抜群の運動神経と洞察力がありながら、自分からは決して問題を起こそうとしなくてもなぜか問題の渦中にいつもいることになり、決していいとはいえない目つきとストレートな物言いのせいで悪者になりやすかった。また、事の真相をきちんと見抜かずに自分に非があるに違いないと決め付ける大人たちにもうんざりだった。そんな倉持に高島礼は挑戦的な笑顔で事も無げにこういったのだった。

「実力だけの野球部よ」

その言葉は倉持には魅力的だった。実力があれば一年だろうと三年だろうと同等に扱われるのだ。自分よりも下手な人間の下でくすぶるなんてこと中学時代で十分すぎるほど味わった。実力だけならのし上がれる自信が自分にはあった。そして一も二もなく高島の誘いを受けたのだった。

さぁて、と。

倉持は心なしか緊張しているのか、一息吐いて、希望につながるであろうドアを開けた。すると

「いらっしゃ〜い」
「ひっ…!!!」

開けたドアの前には血まみれの顔があり、突然のことに倉持は後ずさった。段差があったせいでバランスを崩し、しりもちをつく形になってしまった。

血まみれの男としばし目を合わせる。よく見れば何てことない、稚拙な悪戯程度のものだった。しかし問題はここからだった。

「青道野球部へヨウコソってな! オレは同室の2年伊佐敷純…っと?」

ガハハと笑って伊佐敷と名乗った上級生はふと言葉を止めた。

「何だよ、千葉から問題児来るって聞いたのに、ばぁちゃんに付き添って来てもらうようなガキかよ」
「え?」

倉持は伊佐敷の言葉に首をかしげる。倉持の祖母は二人とも他界している。特に倉持を理解してくれていた祖母はつい半年ほど前に他界したところだった。

「すいません、驚かせて。これ、伝統なんっスよ」

伊佐敷は倉持の斜め後ろに向かって丁寧に頭をさげた。いかに柄が悪そうでも、そこは高校球児。礼儀を知っている。しかし、倉持にはそんな伊佐敷の行動がわからなかった。そして伊佐敷越しに見える部屋の中で、もう一人の上級生らしき人物が正座をしてうつむいたまま、頭の上で手を合わせていた。合わせている手には数珠と十字架が見えた。

数珠…十字架。

それを見て倉持は嫌な予感に体を支配された。いいかげん立ち上がろうにも立ち上がれない。言いたくないけれど言わなくてはいけないだろう。言ってしまえば恐ろしい現実をつきつけられようとも…倉持はゴクリとツバを飲み込んでから意を決して口を開いた。

「オレ…一人っスけど」

伊佐敷は倉持をちらっと見た。そしてもう一度倉持の斜め後ろ、少し目線を下げて下を見る形でじっと止まる。しばらくそうしていたかと思うと、ぱっと倉持に晴々とした顔を向けた。

「悪ぃ、このばぁちゃん、実体なかったわ!」

ガハハと笑って頭をかく。部屋の中からは恐怖におののいた声音で南無阿弥陀仏が唱えられる。倉持は力が抜けてその場に倒れこんだ。倉持の目には綺麗な空が広がる。そのあまりにも澄んだ綺麗な空とくったくのない伊佐敷の笑い声が、がかえって倉持をむなしくさせた。


20070808


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