夢 | ナノ

6話

「とりあえず、チョコはもらえる」

 昼休み、どうなった?とニヤニヤと聞いてくる亮介にそう言うと、へぇっと素直に驚いた。

「やったじゃん。告ったの?」
「告ってねぇけどよ。義理だ、義理」

 吐き捨てるように言うと亮介はなぁんだとつまらなそうに口を尖らせた。なぁんだ、と言いたいのはコッチの方だった。朝からいい展開だった。9回裏、二死満塁、って状況でバッターボックスに意気揚々と立ってみりゃ、結果はデッドボールくらって、押し出した、そんな感じだ。

 朝、教室に入ると森の声が聞こえた。

「仁志くんにチョコ用意しなきゃね!」

 亮介の言ってた通りだった。どうしてそんなに森が仁志と花沢をくっつけたがっているのかはわからないが、憎たらしいったらねぇ。あぁ、やっぱりこのままだと花沢は仁志にチョコやるんだろうな、と思った。本当にここらで何とかしないと花沢は仁志のものになってしまう。今まで自分のものにすることなんて更々考えてもいなかったくせに、他のヤツにとられるかと思うと急に焦りが出てきた。

「チョコ…」

 無意識のうちに口から出た。すると森が笑う。

「何、伊佐敷くん、チョコ欲しいんだ」
「くれんのか?」

 とはいえ、別に森から欲しいわけじゃない。ずっとオレの目線は花沢に向いているのに、どうして森はこうして邪魔しに入ってくるのか。

「あげるよ、ねぇ? 葉子?」
「あ…あ、げるよ」

 てっきり邪魔してると思っていた森は意外にも犠打を放ってくれた。花沢は困ったような顔をして、それでも、頷いた。困った顔がまたかわいくて見惚れていると、クリスが後ろから肘でついた。あぁ、そうだ。ここでオレだけにくれって言えば、告白とまではいかなくても、他の奴等に花沢があげることはなくなるかもしれない。仮に冗談と取られても、それはそれで少しは意識してくれるようにはなるかもしれない。

「オレだ…」
「へ〜、いいね。花沢、オレにもちょうだいよ」

 一瞬にして二岡に対して殺意が芽生えた。絶対、ドツキまわしてぶっ殺してやる。クリスが後ろでため息をついたのがわかった。

「何か言いかけなかった?」

 二岡がいなくなると、花沢はオレにそう話しかけた。オレの言葉を二岡が遮ったことをちゃんと覚えてくれていたんだと思うと、それだけでまぁいいかと思った。とりあえず、義理とはいえ、確保はしたんだ。

「なんでもねぇよ」

 ほんとはありまくりだけど、と心の中でつけたして、ガリガリと頭をかいた。



「ツメが甘いんだな」

 クリスは大きくため息をつく。

「まぁ、でも、純にしては上出来でしょ」
「純は実際、チョコは好きなのか?」

 クリスが突然、妙なことを聞いてきた。

「嫌いじゃねぇけど、何で、んなこと聞くんだ」
「いや、それならいいんだ。花沢がどんなものを用意しても大丈夫ってわけだ」

 花沢が用意したものなら何だってかまわない。何をじゃなくて、オレに、というのが大事なことだからだ。

「毒盛られたりしてね」
「…花沢がくれんなら毒入りでも食ってやる」
「うわ、ほんとに好きなんだね」

 亮介は半ば呆れたように笑った。そう言われて改めて花沢が好きなことを自覚する。

 姿を見てるだけでよかった。声が聞こえるだけでよかった。けれどいつのまにか話をしたくなり、その笑顔を自分だけにむけて欲しくなった。花沢に近づきたくて触れたくてたまらなくなった。そのたびに体育祭での花沢の「ごめんね」と泣く声が胸を突いて、自分を押しとどめた。

 体育祭の翌週に花沢に呼び止められた。差し出されたのは紙袋で、中は新しいTシャツだった。

「ごめんね、汚しちゃったでしょ」

 花沢はまた泣きそうな顔をしてうつむいた。

「…べつにいいのによ」

 汚れてしまったTシャツなんて洗ってすませられる。実際1年に洗わせて、使っている。オレが欲しいものは花沢の笑顔なのに、そんな泣きそうな顔を向けられても、ただ胸が痛くてせつなくなるばかりで素直に花沢の謝罪を受け取れなかった。

「うん、でも迷惑、すごくかけちゃ…」
「いいっつってんだろーが!」

 これ以上花沢の謝罪を聞きたくなくて、大きな声で遮った。花沢は体をびくりとさせると、もう一度ごめんねと言ってそのまま走り去った。

 オレは自分が情けなくて、たまらなかった。花沢には笑っていて欲しいのに、結局は自分が泣かせてばかりだ。近づいてはダメなんだと思った。その姿が目に映るだけで、その声が耳に聞こえるだけで満足していた頃に戻らなくては、またきっと花沢を傷つける。

 そう決心していたくせに、また近づいた。花沢を好きだという気持ちは、波のように寄せては返し、寄せては返し、繰り返してはとどまることなんてできやしない。

 結局はどんなに我慢してみたところで、好きだという気持ちは何にも換えることなどできなかった。いっそ、好きだと告げて木っ端微塵に砕け散ってしまうほうが、いいかもしれない。そうして遠くから花沢の、他のヤツに向けられた笑顔だけ見ていれば、いい。それがきっと、オレにはお似合いだ。






20070424


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