夢 | ナノ

1話

  伊佐敷くんは女子に人気がない。伊佐敷くんが好きな私には大変喜ばしい現実だった。けれど伊佐敷くんは男子には絶大な人気を誇る。クラスメートはもちろんのこと、野球部の面々にいたっては、先輩からも後輩からも。いつも伊佐敷くんの周りには人が集まっていた。これが女子に人気がある以上に私の恋の障害になるなんて思いもよらなかった。何しろ、一人になることがほとんどないのだ。おまけに寮生活。どこにも親しくなるチャンスはめぐってこなかった。なんとかしたい、そう思いながら、好きになった体育祭からもう半年近く過ぎていた。3年で同じクラスになれるかどうかわからないし、このバレンタインが勝負だと思っていた。

「まぁ、でも。アンタくらいでしょ。アレに声かけるの。競争率は低そうじゃん」

 雑誌のバレンタイン特集を広げながら、相談相手の友人の林子はこれっぽっちも親身じゃない。それというのも林子が伊佐敷くんのことを良く思っていないからだ。伊佐敷くんが好きな私にもそれについてはかばえなかった。なぜなら伊佐敷くんは女子に愛想がないのだ。男子といる時とはまったく別人だと思えるほどで、林子が言うには無愛想ならまだしも女子を小バカにしている感じもするという。

「競争率以前の問題のような気もするんだけど」

 ラッキーかアンラッキーか、私の席はクリスくんのすぐ隣で、休み時間には野球部がたまっている。もちろん、伊佐敷くんもクリスくんの前の席にすわって、さらに隣のクラスから小湊くんもやってきて盛り上がっている。そんな伊佐敷くんを横目で見てため息をつく。そう、顔を合わせればおはようと挨拶したり、何かしら口実を作っては話しかけたりはしてきた。それくらいしか出来ることがなかったというのが本当のところだけれど、他の女子よりは確実に伊佐敷くんと話をしているはずなのだ。けれどそれがどのくらい伊佐敷くんの意識に影響を与えているかというと、成果はなきに等しい。元々林子のいうように無愛想だったけれど、特に最近は冷たい気がする。

 今朝、下駄箱で会ったときにいつものように「おはよう」と声をかけた。伊佐敷くんはちらっと視線をよこして手を軽くあげただけで、結城くんたちとスタスタと教室へと行ってしまったのだ。今までだって、そんなに愛想よくしてもらっていたとは言えないけれど、今日のこれにはかなりへこんだ。

 それに、体育祭でのお礼も兼ねて、汚してしまった伊佐敷くんのTシャツの代わりにあげたTシャツも、使ってくれている様子もなかった。もっとも押し付けたようなものだから、迷惑だっただけかもしれないけれど。

「迷惑、なのかなぁ」
「迷惑なんじゃない」
「やめてよー、本気でへこむよ」
「つかさー、仁志くん、どう?」
「…また仁志くんの話?」

 いいかげん林子の口から出てくる「仁志くん」にはうんざりだ。仁志くんは林子の彼の親友で、別に仁志くん自身が私のことを好きなわけでもなんでもない。林子は彼女のいない仁志くんに遠慮している自分の彼のために彼女ができたらいいと思っているだけなのだ。要するに自分のため。

「いいヤツなんだって。絶対仁志くんと葉子はお似合いだって!」
「ちょっ…!声大きいよ」

 林子の大きな声は明らかに伊佐敷くんに聞かせようとしていた。それに気づいて慌てて林子の口に手をあてるが、無駄だったらしい。仁志くんと同じクラスの小湊くんが伊佐敷くんの隣で意味ありげに笑って話しかけてきた。

「仁志のこと好きなんだ?」
「ち、ち、違うよ! 違うから!」

 とんでもない誤解をまねいてしまいそうで、大きく手をふって否定する。これ以上、望みが薄くなるようなことは少しでも避けたい。

 お願い、伊佐敷くんが誤解しませんように!

 そんな私の願いが通じたのか、それともそれ以前に興味がないのか、伊佐敷くんはちらっと私を見ただけだった。その態度にもまた胸が痛む。

「亮介、もうすぐ予鈴鳴るぞ」

 まだ私に何か言いたそうだった小湊くんはクリスくんにそう言われて、自分の時計をちらっと見ると、なぜか私にじゃあねと手をふって教室を出て行った。伊佐敷くんは私の方など見ることもなく自分の席へと戻っていく。その背中を見てさらにせつなくなった。

 伊佐敷くんは私に興味がない、いまさらながらに、そう思い知らされたからだ。




20070410


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