「あのねセルティ、静雄さんってね、すごい格好いいんだよー」

《うん》

「優しいし頼りがいもあるし、いっつもわたしのこと心配してくれるしね、もうほんとに格好いいのー」

《うんうん》

「だからね、静雄さんにいわれて初めて気付いたっていっても、わたしだってずっと前からどきどきとかしてたんだよっ」

《うん、うん、そっか》


わたしの体に抱きつきながら、すっかり出来上がってしまった美尋ちゃんはへにゃっと笑ってそう言った。
元はといえばわたしが水と間違えて酒を渡したのが悪いんだから、今の状況だってまったく嫌ではない。
美尋ちゃんのこんな姿を見るのは初めてだし、美尋ちゃんがいかに静雄を想っているのかがわかって微笑ましいしね。


「…でもね、わたし、ちょっと悩んでるの」

《悩んでる?どうしたの?》

「わたし、さみしがりやで甘えん坊みたいなの。だからね、静雄さんにもっと甘えたいんだけどね、あんまりべたべたしちゃいけないとおもうの」

《どうして?》

「だって、静雄さんは大人だもん。いまはよくてもね、いつまでもそんなのじゃ子供っぽいんじゃないかって。それで静雄さんにうっとうしくおもわれたらどうしようって」


ぎゅう。
一層力を強くした美尋ちゃんは、表情を隠すようにわたしの肩に顔を埋める。


「それにね、気持ちに気付いたっていっても、静雄さんにいわれてからだから」

《うん》

「……静雄さんはずっとすきでいてくれてたのに、自分の気持ちもずっと知らなかったわたしが、くっついたりしちゃいけないんじゃないかなあって」


わずかに顔を上げた美尋ちゃんは、不安そうに眉尻を下げる。
それはさっきまでの楽しげな表情からは想像出来ないくらいに、泣きそうで。


《美尋ちゃん、きっと静雄はそんなこと気にしてないよ》

「…どうして、そうおもうの?」

《それは本人に聞いてごらん》


わたしの言葉に首を傾げた美尋ちゃんの背中を撫でながら、PDAを違う方に向ける。


《…静雄、大丈夫か?》

「……………」


どうやら大丈夫じゃないらしい。
美尋ちゃんはすっかり忘れているのかもしれないが、この子が話をしている間、静雄は寝ていたわけでも、トイレに行っていたわけでもない。
顔を赤くした静雄は、ずっと、最初から最後まで、わたしたちから1メートルほどしか離れていない場所にいた。


「美尋ちゃんはお酒飲まない方がいいタイプだね」

《…ああ》

「……こいつが成人しても絶対飲ませねえ」

「あはは、ってことは、成人するまでも、してからもいっしょにいられるんですねー」


にこにこと、さっきまで泣きそうな顔をしていたとは思えないくらい嬉しそうに笑った美尋ちゃんが言う。
これは静雄も苦労しそうだ。いい意味で。


《そろそろ寝かせた方がいいんじゃないか。お前のためにも》

「…あー。んじゃ、もう遅いし帰るわ」

「え、帰るの?泊まってってもいいよ?」

《お前も酔ってるんだし、女の子とは言え酔った子を連れて帰るのは大変だろう》


わたしの言葉に「いや」と手をあげた静雄は、ぐだっとしている美尋ちゃんを抱えて立ち上がる。
どうやら本当に帰るつもりらしい。


「俺も酔い醒ましてえし。ありがとな」

《でも…》

「そう、わかった」

《新羅っ》

「セルティ、静雄はきっと美尋ちゃんと2人でいたいんだよ」


無理に引き止めることはないのかもしれないが、このまま帰らせて大丈夫だろうか。
そう心配になるわたしに、新羅は笑いながらそう言った。


「静雄さん、ほんとですか?」

「何が?」

「わたしと一緒にいたいって」

「………」

「…うそ?」

「…さっさと帰るぞ」


あははははは、静雄さん照れてる!
そんな声をあげる美尋ちゃんは、まるで小さな子供のように無邪気に笑う。
そしてそれに対して赤い顔をした静雄は、相変わらず酔っ払った美尋ちゃんに翻弄されているようだ。


「静雄、気をしっかりもつんだよ?まあ酔った子を襲うような狼さんは僕の友達にはいないはずだけど、念のためにね」

「っうるせえ!死ね!」

「ぐふっ!じょ、冗談だよ冗談!」


ふざけたことを言う新羅の腹を一発殴ったと同時に、静雄の足が新羅の腿に当たる。


「っ…あたまいたい…」

「あー…ごめんな、大丈夫か?」

「…うう、」


突然の大きい声に肩を小さく揺らした美尋ちゃんは、手で頭を押さえながら静雄の言葉にわずかに頷く。
…ああそうだ、美尋ちゃんの荷物とか渡さないと!


《静雄、これ》

「…ああ、悪い。サンキュ」

「しんらさんもセルティもばいばーい」

「うん、バイバイ」


上着とマフラーをまとわせ、美尋ちゃんのバッグと紙袋を静雄に渡す。
楽しそうに笑っているところを見ると、頭の痛みも消えたらしい。


《じゃあ気をつけて》

「おう、じゃあな」


バッグと紙袋を持った手を軽く上げて、静雄と美尋ちゃんがドアの向こうに消える。
多分、わたしに首があったなら、その口からため息を吐いていることだろう。


《…あんなに顔が赤い静雄は初めて見た》

「うん、僕もだよ」

《けど2人とも幸せそうで良かったよ。安心した》


静雄はいい奴だし、別に心配していたわけじゃない。
けど付き合うとなると色々勝手も違うだろうし、美尋ちゃんはそういう方面に免疫がなさそうだったから、どうかと思っていたんだけど。


「今頃大変だろうねえ、静雄」

《?》

「いや、男っていうのは愚かな生き物だと思ってさ」


くるりと背中を向けた新羅が、わたしの手を引いて自嘲気味に呟く。
その意味を実地で教えてもらい、ある意味で美尋ちゃんの身が心配になったのは、それから2時間後のこと。

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