「じゃん。どうですか?」

「ん、いいんじゃねえか」

「よし、じゃあ今日はこれで行きます」


いつもより遅く起きた土曜日のお昼前。
昨日の夕食後に話した通り、静雄さん好みだという服に身を包んだわたしは、今最高に機嫌がいい。


「でも足寒そうだな」

「タイツ履くから大丈夫ですよ。多分」

「お前冷え性なんだからあんま体冷やさないようにしろよ」

「ふふ、はーい」


グレーのニットにデニムのショートパンツ、そしてそれを包む黒いアウター。
もこもこした白いマフラーを巻きながら言えば、ちょうど静雄さんも準備が終わったところらしい。


「静雄さんは相変わらずですね」

「あ?」

「ふふ、相変わらず格好いい」


いやあ、もう、本当に格好いい。
Tシャツにスエット姿でも格好いいとか意味わかんないって感じだけど、私服に身を包むとそれはもう、もう、本当にやばい。


「背も高いし、モデルみたいですね」

「……あー…」

「っていうか何でモデルじゃないんだろうって逆に不思議ですよ」


スカウトされたりしないのかな。
まあされたとしても静雄さんの性格なら断るだろうし、それでも食い下がってきたら不機嫌になるだろうから…その後のことを色々考えても、きっと静雄さんがモデルになることは、一生ないんだろう。
完璧なスタイルを目の前にそんなことを考えていると、少し恥ずかしそうに静雄さんが口元に手をやった。


「…も、」

「え?」

「お前も、かわいい」


小さな声で言った静雄さんは、顔を少し赤くして目を逸らす。
う、わあ。どうしよう。すごい恥ずかしい。


「…そろそろ、行きますか」

「……おう」


何だか居たたまれなくなって言ったけど、それは静雄さんも一緒だったらしい。
玄関までの短い距離を歩くわたしたちは無言だったけど、それでもすごく幸せだった。



******



「これかわいー」

「小さくね?」

「あ、確かに。この前のやつはこれより二回りは大きかったですよね」


駅前の色んなお店を回りながら、静雄さんと一緒にグラスを探す。
うーん、あれもこれもかわいくて迷っちゃうなあ。


「…あ、」


どれにしようかな、と思いながら歩いていると、ちょうど視線の高さにあるグラスに目がいった。
ピンクと青、色違いの2つのそれは決して大きくないけれど―…


「…嫌がるかな」

「ん?どうした?」

「あっ、いや、何でもないですっ」


一瞬頭をよぎった考えはあまりにも乙女な思考過ぎて、とんでもないけど静雄さんに言うことなんて出来ない。
まあ憧れと言えば憧れだったけど、でもほら、こういうの嫌がる男の人とかもいるっていうし。
…やっぱり、わたしが浮かれすぎてるんだろう、から。


「………」

「…おい、マジでどうした?気分でも悪いのか?」

「っあ、いや、その。大丈夫、です」

「嘘吐いてたら怒るぞ」

「嘘じゃないですっ、本当、元気ですよ」


静雄さんは未だにいぶかしげな視線を向けてくるけど、それだってわたしを心配してのことなんだとわかってるから、嫌な気は当然しない。
…でもこれを言ったら、どうなるんだろう。そんなことを言いながらちらりと棚のグラスに目をやれば、彼もまたそのグラスに視線を落とす。


「これ気に入ったのか?」

「え、あ、」


ピンクの方のグラスを取って、静雄さんがわたしに目を向ける。
あ、あう。


「……かわいいなあって、思って」

「? ああ」

「それ、で。せっかく青もあるから…静雄さんと、」


おそろいに出来たらなあ、って。
恥ずかしさとかドキドキとか色んな感情がごちゃ混ぜになって、言葉がだんだん尻すぼみになってしまった。
そういえばこういうのを“竜頭蛇尾”って言うんだと新羅さんが前に言ってた気がする。


「…ごめんなさい、やっぱり何でも、っ」


反応がないってことは、多分最後の方の言葉もちゃんと聞こえていたんだろう。
無言の静雄さんに堪えられなくなって言いながら顔を上げれば、


「………」

「…え、何で顔赤いんですか」

「……うるせえよ」


うわあ、びっくりするくらい顔真っ赤。
うるさいって一蹴されてしまったけど、静雄さん自身も赤面してる自覚はあるらしい。


「行くぞ」

「え、っ」

「買うんだろ、これ」


器用に2つのグラスを右手に持った静雄さんは、わたしの右手を掴んでずんずんと歩いていく。
どうしよう、なんて声をかけたらいいかわからない。


「あ、あのっ静雄さん、」

「何だよ」

「いいんですか?」

「何が?」


何がって、おそろいのことですよ。
立ち止まって聞いてくれたけど、なぜかハッキリ言うのははばかられる。
だから視線だけグラスに向けてみたんだけど、どうやらちゃんと理解してくれたらしい。


「あー…その、何だ。別に嫌だとか、そういうわけじゃないから」

「そうなんですか?」

「俺だって嫌じゃねえし、お前が嬉しそうな顔すんなら別にいい」


そう言ったきり、ぷいっと前を向いてまた歩き出す。
手はつながれたままだから、わたしも強制的に歩かされることに、なるんだけど。


「…静雄さんのいけめんっ!」

「は?」

「何で恥ずかしげもなくそういうこと言えちゃうんですかっ!」


何なの、何でわたしがああ言った時は赤い顔するくせに、平気な顔でそういうこと言ってのけちゃうの。
前々から何となく気付いてたけど、静雄さんって天然だっ。
照れ屋なくせして平気で恥ずかしいこというんだから!嬉しいけど!


「これ買わなくていいのか?」

「そういうことじゃないですっ、買います!」

「?」


意味わかんねえ、と呟きながらまた歩き出した静雄さんとレジに向かう。
ちょっと悔しくて握る手に力を込めれば、髪の隙間からわずかに覗く耳が赤くなった。

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