内緒の話
普段は神様なんて信じとらん俺でも、今回ばかりは、神様に全力で感謝したい。
「おはよー仁王」
「ん、おはよーさん」
いいことってのはしとくもんじゃな。
及川の笑顔を見てそう思った俺は、きっといま世界で一番神に愛されてる男だろう。
クラス替えを機に、密かに想いを寄せていた及川と同じクラスになれた。
それに加えて隣の席とは、俺がいいこにしとったから、神様がご褒美をくれたらしい。
逆に、これだけいいことが続くなんて近々悪いことでもあるんじゃないか、とたまに不安になるほどだけれど、幸せは日に日に増していく。
「昨日のドッキリのTV見た?」
「あ、見た見た。面白かったよねー!」
「今度は真田にあれやっちゃる」
「うわあ、すっごい怒りそう」
「真田が怒るのなんていつものことじゃ」
「たしかに!」
楽しそうに笑うのがかわいくて思わず笑うと、及川は一転して不思議そうな顔で俺を見る。
そんな顔までかわいいなんて、及川はほんとうに罪な女じゃ。
「どうした?」
「いや…仁王ってさ、意外と笑うよね」
「は?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
いや、だめじゃ、俺はクールな仁王くんなんじゃ。と、ほとんどの女子の間で出来上がっている(らしい)俺のイメージを自分自身に言い聞かせるも、その思いとは裏腹に、心臓はどんどん早くなる。
「なん、じゃ 急に」
「いや、隣の席になるまでは、仁王がこんなに風にいろんな顔する人だと思わなかった」
「 なんで、」
どくん、どくん、徐々に早まっていく心臓の音が、緊張が、及川に伝わってしまわないか不安になる。
「なんで、そう思うん」
「仁王ってポーカーフェイスのイメージだったし、笑ったりするとしてもテニス部の前でだけだと思ってたから」
「……」
「けど話してみたら普通に笑うし、しょんぼりしてる時とか、子供っぽい時もあるし。
意外とコロコロ表情変わるんだね」
そんな、及川がそこまで俺を見てたとは知らんかった。
うれしさと恥ずかしさが混ざったよくわからない感情に、ただでさえあまり見られなかった及川の目が、完全に見られなくなる。
「だからね、笑ってくれるとちょっと嬉しいんだ。わたしと話してるの楽しいって思ってくれてるのかな、って」
「そう、なんか」
その言葉に思わず顔をあげると、へへ、と笑う及川と目があってしまった。
笑顔せいか、はたまた言葉のせいか。いままでないくらいに顔に熱い。
「仁王、顔赤いよ?どうしたの?」
「…なんでもなか」
「ねぇ、大丈夫?熱あるの?」
「〜〜〜っ!」
あああああもう、そんな近付いたら益々赤くなるじゃろ!やめてくれ、いやうそ、やめんで。
目の前でおきてることに頭がついていかなくて、おかしくなりそうじゃ。
「ちょっと、耳まで赤いけど」
「ほんまに、なんでもないけ…」
そう言って机に突っ伏す俺の頭上からは、大丈夫ー?という及川の声。
大丈夫じゃなか、及川のせいじゃ!と言うと、えー、と不満げな声がした。
「おーす、って…なにしてんのお前ら」
「あっ、おはようブン太」
「こいつどうしたの」
「わかんない、話してたら急に顔赤くなって突っ伏したから、どうしたのって聞いたらわたしのせいって言われて」
「へえ…なるほどなぁ」
楽しそうな声のブンをキッと睨みつけると、奴は更に楽しげにニヤニヤ笑う。
「ペテン師の名が泣くなあ、仁王」
「…弁当ぜんぶ食っちゃろうか」
「素直になれよー」
話がわからないらしい及川と、会話の内容まではわからないまでも、俺の気持ちは察したらしいブンちゃん。
くそ、柳生にさえ教えとらんかったのに、厄介な奴にバレた。
「ねぇ仁王、ほんとに大丈夫?」
「…ん」
「そっか、ならよかった!でもなんで顔赤くなったの?」
「!!」
内緒の話
((そんなん言えるわけなか!))
(及川、こいつ意外とピュアって知ってた?)
(黙りんしゃいデブン太)
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