tns | ナノ

こんばんは、未来の恋人


「ほお、そうなんか」

『もうびっくりしちゃった!』

「さちはビビりじゃのう」

『いやいや、仁王もその状況になったら絶対ビックリするから!』


電話の向こうから聞こえる声に、すこし心臓が早くなる。
機械を通してるせいかいつもよりクリアじゃないさちの笑い声も、それはそれでいいもんじゃ。


「のうさち、」

『ん?』

「俺たち、ほぼ毎日電話しとるよな?」

『え、うん。突然どうしたの?』


さちと初めて話したのが、大体1ヶ月くらい前。
次の日がはやいっちゅーときとか、さちのほうに用事があるとか。
そういうとき以外は、ほぼ毎日こうして30分から1時間、話し込んだら2時間程度話しとる。
ホワイトプラン様様じゃ。


「それってつまり、俺もさちも、お互いと話すために時間を割いとるわけじゃ」

『うん、そうだね』

「付き合っとるわけでもないのに、じゃ」

『…あの、ごめん。迷惑だった?』


すこし不安そうなさちの声がして、わずかに焦ってしまった。
まあとりあえずは聞きんしゃい。


「そうじゃなか。迷惑だなんて思っとらんよ」

『ならいいんだけど…』


ならいい?いいわけないじゃろ。
そんな気持ちを抑えつつ、俺は話をつづける。


「さちは俺と話しとって楽しい?」

『うん、楽しいよ』

「俺もじゃ」


楽しくなきゃ毎日話したりしないよ。
さちはそう言っとるけど、本当にそう思っとるんか?
一呼吸おいて開いた口は、思ったよりも乾燥しとる。


「 あくまで、俺の経験なんじゃけど」

『うん』

「学校である程度話して、連絡先知ってから頻繁に電話するようになると、」

『うん』

「オトモダチから、もうちょい先に進むもんなんじゃけど?」


俺のことばに対し、さちはなにも反応しない。
突然そんなこと言われて戸惑っとるんじゃろう。
反応を見れない物足りなさに、電話じゃなくて直接言えばよかったとすこし後悔した。


『…どういう、こと?』

「気付いとるんじゃろ?」

『……しらない。だって、仁王の経験だもん』


自分は経験しとらんからわからん、そう言いたいらしいさちじゃけど、俺は知っとるよ。
さちがどんな顔をしてるのか手に取るようにわかって、ニヤリと笑った唇が弧を描く。


「さちは気付いてないふりしとるだけじゃ」

『そんなこと、』

「ないとは言わせんよ」

『………』


さちがだまってしまったせいで、俺たちの間には沈黙が走る。
すこしいじめすぎたかもしれんのう。
でもな、俺ももう限界なんじゃ。


「…さちは、ほんとにわかっとらんの?」

『……うん、』

「そうか、それは残念じゃ」


急に口数が少なくなったさちに、またしても口元がゆるむ。


「なら、覚悟しんしゃい」

『…え?』

「明日会ったら、気付かしちゃる」

『えっ、にお、』


なにか言いたげなさちは無視して、耳元から携帯を話す。
明るくなった待ち受けを見ながら、明日を楽しみにベッドにもぐった。


こんばんは、未来の恋人


(さちちゃーん)
(ぎゃっ!に、におう!)
(まだ気付いとらん?)
(な、なんのこと?)

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -