《美尋ちゃん、おいしい?》

「うん、おいしい!」

《よかった》


ベビーリーフのサラダにローストチキン、シチューのパイ包み。
たくさんのクリスマス感溢れる料理を食べ終え、ケーキの甘さに舌鼓を打つわたしに、セルティは嬉しそうにそう言った。


「あ、でもごめん…セルティは、」

《ああ、気にしないで。みんながおいしそうに食べてるのを見てるだけで満足だから》


食事を必要としないセルティに罪悪感を抱いても仕方ないのかもしれないけど、やっぱり少し申し訳なくなって言えば、彼女がそう打ち込んだPDAを見せてきた。


「静雄さんのイチゴ真っ赤でおいしそうですねえ…」

「…同じだろ」

「交換しましょ!」

「はあ…」


仕方ねえな、と言いながらもわたしのお皿にイチゴを乗せた静雄さん。
ふふ、お礼の印に、砂糖で出来たサンタさんを半分あげよう。


「…お前あっさりグロいことするな」

「え?」

《首と体が真っ二つ…》

「あ、じゃあこれセルティだね!」


体だけになったサンタさんをずいと出して言えば、新羅さんの目が輝いた。
…ああ、そっか。うん、これは新羅さんにあげるとしよう。


「静雄さんには頭あげます」

「いらねえよ」

「失礼なこと言うなよ静雄!」

「お前はうるせえ」


マジトーンの新羅さんについ笑いそうになってしまったけど、本当にセルティのことだいすきなんだなあ。
ふふ、ほほえましい。


「つーかクリームついてるぞ」

「あ、すいません。ありがとうございます」


わたしの口元に触れた静雄さんが、クリームのついた指を舐める。
………何で新羅さんたちびっくりしてるんだろう。
いや、セルティは顔がないからもしかしたら違うかもだけど…固まってる。


「どうしたんですか?」

「…あ、ううん!そ、そうだセルティ、そろそろアレ持ってこようか!」


こくんと頷いたセルティと新羅さんが、席を立ってどこかに向かう。
どうしたんだろう、本当に。


「何だあいつら」

「何でしょうね」


残されたわたしと静雄さんは、2人の様子のおかしさにただ首を傾げるばかり。
けれど一瞬にして意地悪そうな表情に変わった静雄さんは、ちょっと申し訳ない半面、非常に魅力的な提案(?)をしてきた。


「美尋、この隙に新羅のイチゴ食っちまえ」

「え、怒られませんかね」

「あいつはそんくらいで怒んねえよ。いらないなら俺が食うぞ」

「あ、だめ!わたしが食べます!」

「ほら」


慌ててそう言えば、静雄さんが手にした(新羅さんの分の)イチゴをわたしの口に放り込む。
…んん?


「今何か変な音しませんでした?」

「そうか?」

「気のせいですかね」


機械音が聞こえたような気がしたんだけど、空耳だったのかな。
そしてそれから5分ほど経過し戻ってきた新羅さんたちは、赤い袋を手にニコニコと楽しそうだった。


「はい美尋ちゃん」

「え?」

《プレゼントだよ》

「…え!」


そんな、わたし持ってこなくていいって言われたから、プレゼントとか用意してないのに!
どうしようどうしよう、と静雄さんを見上げれば、とりあえず見てみろよと言われた。
わたしはその手前のことでどうしようと思ったのに、一段すっ飛ばしてらっしゃる。


《わたしたちの気持ちだから受け取って》

「…いいの?」

「もちろんだよ」


ほんのりと重みを感じる袋の中身を当てようと触ってみれば、何やら2つの硬い感触。それに…四角い?
まったく見当がつかないので当てることは諦め、結ばれたリボンを解いてみれば、


「…あ、写真立て!」


しかもフレームの中には、ツリーの前に座るわたしとわたしの頭を撫でる静雄さん、ツリーのオーナメントに触れる新羅さんと、座り込んだまま彼を見上げるセルティの姿。
どうやらセルフタイマーで撮ったらしい。


「ああ、さっきの音ってこれだったのか」

「え、音って何ですか?」

「俺がツリー見にきた時、後ろで何か機械っぽい音がしたんだよ」

「ご名答、気付いてたんだね」

「気のせいだと思ってたけどな」


ってことは、さっき聞こえた音も写真を撮った音?でも写真はこの一枚だけみたいだし…わたしの聞いた音は本当に空耳だったのかな。
そんなことを考えながら、もう1つの何かを取り出すために袋の中に手を入れる。


「…ん?」


四角くてピンクの箱を手にすれば、感じた重みの理由がわかった。
わたしはこれを自分で買ったことなんかないから、もしかしたら違うかもしれないけど。


「デジカメ…?」

「それで撮ったんだよ」


だからデータはその中にあるからね。
そんなことを言いながら笑う新羅さんに、自分が何をもらったのか理解して、どんどん嬉しさと申し訳なさが大きくなっていく。


「えっ、あの、!えっと…どう、しよう」

《何でそんなに焦ってるの(笑)》

「だってこんな高いもの…やばいっ、どうしよう静雄さん!」


一瞬目を丸くして、直後笑い出す3人にどうしていいのかわからなくなる。
本当に本当に嬉しいんだけど、それよりも焦りが勝ってしまった。


《これからそれでたくさん写真を撮るといいよ》

「プリントならいつでもしてあげるからね」


わたしの考えていることがわかったのか、セルティが言いながらわたしの頭を撫でる。
パーティーに呼んでもらえただけで十分嬉しくて、なのに写真をもらって、デジカメももらっちゃって。
申し訳ない気持ちが完全に消えたわけじゃないけど、嬉しいという感情がじわじわと大きくなっていく。


「…あっ、あの、本当にありがとうございます!」

《喜んでもらえた?》

「うん、すっごく嬉しい!写真は飾らせてもらうし、デジカメも使いまくる!」


お父さんたちの写真の横に置こう、なんて考えると頬が緩んで仕方ない。
ふふ、本当に嬉しい。思い出が形になるのって、こんなにも幸せなことなんだ。


「宝物が増えました」


言いながら少し潤む目で笑えば、新羅さんと静雄さんも笑って、わたしの頭を撫でてくれた。
セルティだって、顔はないけど笑ってるのが雰囲気でわかる。


「そうだ。これの元の画像、携帯に送ってもらえませんか?」

「わかった、後で送るね」


こんなことなら新羅さんのイチゴ食べちゃわなきゃよかった、と後悔しても後の祭り。
彼が気付く前にちゃんと謝ろうと心に決め、今にもこぼれそうな涙を指で拭った。



******



「寒いですねー…」

「寒いな」


新羅さんたちの家を出て10分ほど、寒さを訴えながらの帰り道。
空が暗いせいで吐く息はこれ以上ないくらい白いけど、胸に抱いた赤い袋に、わたしの心はぽかぽかとしていた。


「楽しかったか?」

「はい、すっごく!」

「そりゃよかった」


言いながら笑う静雄さんの指が煙草を取り出すのを見て、何故だか心臓がどくんと鳴る。

その理由は、多分静雄さんが一瞬席を立った時にセルティに言われた、《さっきの場面も撮っといたからね》という言葉。
どういうことか問いただせば、4人で映っている写真の後ろを見てみるように言われ、指示に従えば…


「(まさかイチゴ食べさせられてるところを撮られてたなんて…!)」


自分の顔に熱が集中していくのを感じると同時に、辺りの暗さに感謝した。
別にあの時は意識してなんかいなかったけど、ああやってわざわざ形にされると恥ずかしいものがある。


「美尋」

「っ、あ、はい!」

「…どうした?」


自分の世界に入っていたところで声をかけられたせいで、思ったよりも大きな声が出てしまった。
ああ恥ずかしい…静雄さんも不思議そうな顔してるし…


「すいません…何ですか?」

「あー…明日どっか行くか」

「え」

「去年はプレゼントとかもやらなかっただろ」


別にそんなの気にしなくてもいいのに、と思ったけど、そう言ってくれたのは純粋に嬉しかった。
わたしの表情にもそれが出てしまっていたのか、静雄さんは少し驚いたような顔をした後、満足そうに笑う。


「いいんですか?」

「いいっつってんのにお前バイト代入れるし、礼にもなりやしねえけど…まあこういう時くらいはな」

「好きでやってることなのにー」


わたしは毎月のバイト代の何割かを静雄さんに渡しているんだけど、静雄さんはそれを快く思っていないらしい。…というよりは、申し訳なく思っているみたい。
それに、こういう時くらいとか言ってるけど、静雄さんはよくわたしにお土産でケーキとかを買ってきてくれる。
そしてそれがどれだけ嬉しいことなのか、きっと静雄さんは知らないんだ。


「でも宝物が増えるのはいいことだよねっ」

「は?」

「いえ何でも」


思っていたことが口に出ていたらしく、急いで声のトーンを切り替える。
一人っ子のせいか一人暮らしをしていたせいか、ちょくちょく独り言言っちゃうくせは早く直したいものだ。


「あー…それと、この前悪かったな」

「え?」

「新羅から電話来た時」

「…?」


いまいち理解できない静雄さんの言葉に、黙ったまま顔を見上げる。
…何のことを謝っているんだろう。


「元々プレゼントは買ってやろうと思ってたんだよ」

「はあ」

「けどお前今日も明日もバイトだろ。あんま疲れさせたくもねぇから、どっちかに買い物行って、行かなかった日は家でゆっくりするつもりだった」

「…ああ、なるほど」


もしかしたらこのタイミングで考えることじゃないかもしれないけど、静雄さんって素直になってきたな、なんて思った。
でもそれが嬉しくて、すごくすごーく嬉しくて。


「明日楽しみですっ」

「…そうか」

「頑張って仕事早く終わらせてくださいね!」

「明日の朝飯次第だな」

「ふふん、じゃあ腕振るっちゃいますよ!」


静雄さんが髪をぐしゃっと撫でてきて、わたしの顔にも笑顔が溢れる。
わたしは何をプレゼントしようかな、なんて考えながら歩く帰り道は、いつもの何倍もあたたかかった。



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