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「なまえって皮膚弱かったっけか」

「は?」


いきなり何を言い出すんだ、と思った。
それもそのはず。ただいまわたしたちは(言ってしまえば)比較的あまあまな空気を醸し出していたわけで、決して皮膚の話なんぞするタイミングではなかったからである。


「別に弱くないとは、思うけど」

「うそつけ」

「いや弱かったか聞いたの静雄じゃん!」


せっかくの…というほどでもないけれど、結構いい感じの空気感だったのになあ。
けどきっと静雄はそんなこともはやどうでもよくって、わたしの皮膚のことに意識がいってしまってるんだろう。思いっきり決めてかかってたし。


「いきなりどうしたの?」


甘い空気壊してまで言いたいことだったの、という言葉は飲み込んでおいた。
静雄とも短い付き合いじゃないし、地雷回避能力はそれなりにあるつもりなのだ。


「いや…お前たまにキスした時唇がさついてっから」

「完全にキスのせいですね」

「はあ?」

「冬の乾燥でガサつくの嫌だからリップ塗ってるのに、静雄のキスが長いからとれちゃってるんだよッ。あとはこまめに塗ろうとしても、それ以上に静雄がちゅっちゅしてくるから!」


何だよ何なんだよ、そんなことかよ。
そう言いたいのをグッとこらえて言えば、静雄はあからさまに不機嫌そうな表情になる。いい加減にしてほしい。


「俺のせいかよ。つか文句あんのかよ」

「キスが長いこととちゅっちゅしてくるのはあくまで事実ってだけで文句はないよ、けどそれをやってくる静雄がガサついてるって文句を言ってくることに対しては文句ある!」

「なげえ」

「っ、ん」


ちょ、いくら長ったらしい言葉だったからって、キスでふさぐってのは荒々しすぎじゃないか、いや行動的にはイケメンだけどっ!
…なんて思いながら、そしてキスをされながら、改めて考えてみたけれど。


「…っやっぱり静雄のキスは長いッ」

「ンなことないだろ」

「ある。けどそれに対しては文句言わないから、どっちかにして」

「どっちか?」


不思議そうな顔でわたしを見る静雄の唇を、何となしに見てみる。
…くそう、全然乾燥してない。静雄って全然リップとか塗らないのに何でだろ。やっぱり唇も強いのかしら。関係ないか。

そんなバカみたいな思考に区切りをつけ、口を開いた。


「長時間のキスをやめるか、ガサつきを我慢するか」

「どっちも断る」

「えっ即決じゃん、何でよ」

「別にガサついてるとかは気にしねえけど、俺のせいにされたのが釈然としねえから」


ど ん だ け わ が ま ま な ん だ こ い つ は 。


「それに、お前のリップって薬用だろ。あれまずいんだよ」

「まずいとかやめて何か生々しいから」

「せめて甘いやつにしろ」

「匂いは甘くても味は甘いわけじゃないし、ああいうのって乾燥にはあんまり効果ない気がするんだよねー」


最近はいろんなやつ出てるからもしかしたら乾燥にも効くのはあるかもだけど、買って失敗するのも嫌だしなあ。
そう思いながら解決策を考えてみるけど、静雄は長時間のキスを譲る気はないらしいし…


「じゃあもう静雄が潤してよ、解決策見当たらないし」


静雄はわたしと長時間かつ頻繁にキスしたいらしいし、何かもうそれでいいんじゃないかな。
半ば諦めや面倒くささを感じつつもそう付け足して言えば、


「じゃあそうすっか」

「え」

「四六時中キスしてやるよ」


え、冗談のつもりだったんだけど。
わたしに顔を寄せて言った静雄に、抗議の声は届かない。
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