茶番の始まる音がする
鯉のぼり、五月人形。
TVから伝わってくるそんな情報たちに、時の流れの早さと感じた。
「ああ、今日子供の日だっけ」
「5日ですからね」
「そうだね、5日だね」
ぽつりとつぶやいた臨也さんを見れば、なぜか笑顔を向けられる。
…胡散臭いのは普段と変わらないけど、何だかいつもとちょっと違う気が。
「何ですか」
「希未知らないの?」
「何をですか」
「昨日俺の誕生日だよ」
臨也さんの言葉に、私の体が凍りついたように動かなくなる。
…うそ、マジですか。
「…本当に?」
「本当に」
「…すいません、知りませんでした」
土下座の勢いで頭を下げれば、臨也さんはカラカラと笑いながら私の方に寄ってくる。
うわあどうしよう、全っっっ然知らなかった。知る由もなかった……。
「だろうと思ったよ。何も言ってこなかったから」
「……すいません」
「別にいいよ。俺だって子供じゃないんだし、誕生日ごときに一喜一憂したりしない。君に祝ってもらう義理もないしね」
あまりの言いように嫌味を言われてるのかと思って臨也さんを見てみたけど、本当に気にしていないらしい。
…確かに、私が誕生日を祝ってやる義理はない。
だってこの人は、こう言っちゃなんだけど、多分ほとんどの人から、生まれたことを歓迎されていない。
私だって、少なくとも自分が知る限りのこの人に対しては、手放しで誕生を祝ってあげられるような気持ちを有してはいない。
けど、今はそんな難しいことは、どうだってよくて。
「何かして欲しいことありますか」
「へえ、何かしてくれるの?」
「物買おうにも元は臨也さんのお金だし、それだったら物より行動の方がいいかと思いまして」
「それはそうだ」
楽しげに言った臨也さんは、誕生日を知らなかった私を咎める気はないらしい。
ううん、何したらいいんだろう。
「肩でも揉みます?」
「俺老人じゃないんだけど」
「だって何していいかわからないし」
「そうだなあ」
口元に手を当てて、臨也さんは考えるようなそぶりを見せる。
うわー、やっぱこうして見ると格好いいな。顔がいいからすごい似合ってるし。
「よし、池袋に行こう」
「は、」
私がそんなことを考えている間に、とんでもないことを企んでいたのだろうか。
どこまで池袋好きなんだよ。
「どこか行きたいところでもあるんですか?」
「別に?ただブラブラしようと思って」
「はあ…」
何だそれって言ってやりたいところだけど、誕生日を知らずにいただけに文句は言えない。
変なこと起きなきゃいいけどなあ。
「用意しておいで。待ってるからさ」
「…わかりました」
せっかくだし、臨也さんが買ってくれた服を着よう。
そんなことを考えながら立ち上がれば、臨也さんが満足気に笑った。
プレゼントになんてなりやしない
「うん、やっぱりその服似合ってるね」「ありがとうございます」「化粧してないと目も当てられないけど」「黙れ」
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