世界にさよなら
ひとつだけ願いが叶うとしたら?
そうだな。美人になりたいし、お金もたくさん欲しい。
あ、スタイルも抜群になれたらいいな。ぼん、きゅ、ぼん。
ダイエットするのも大変だから、太らないような体になって欲しいね。
ほかには…そうだ、運のいい子になりたい。人生って運とかタイミングだと思うし。
え、多すぎだからひとつにしろ?
そんなの決められないよ。
全部本当に欲しいものだし、そうなったら幸せだと思うから。
でも本当に、本当にひとつだけ願いが叶うなら。
「まだ死にたくない、」
顔もスタイルも今のままでいい。お金だって地道にバイトする。
運も引き寄せられるように努力します。
だから、お願いだから、まだ私の命を奪わないで。
土砂降りの雨のせいか、生理的な涙のせいか。
もやがかかったように霞む視界の隅で、猫が目を丸くして私を見ている。
それにひどく安心しながら、世界がスローモーションになるのを感じながら、トラックの衝撃に体が宙を舞うのを感じながら、私はそんなことを考えた。
望みを託して
(世界にさようならも言えずに)