さみしがりやの獣
アニメでも小説でもさ。
もっともっと、時系列ってのを明らかにしてくれてたらよかったのに、なんて。
「…うわ」
目の前の光景に、わたしの口からはそんな言葉が零れ落ちた。
そうだ、前兆は確かに昨日あった。
わたしが正臣と帝人と一緒にぶらぶらしてたら、杏里ちゃんがいじめられてて、どうしようかと迷っていた時に臨也さんが現れて。
臨也さんは、いじめてた子の携帯を、気が触れたみたいに踏んづけて。
それに対する文句を言うために…ってあれ、いじめてた子とその彼氏(ヒロシだっけ?あれ、タケシかも。いや、タカシ?)の姿が見えない。
本当ならセルティに蹴られるか何かして、臨也さんがその人踏んづけてってアレコレがあるはずなのに…
職員室で用を済ませてる間に終わったのだろうか。
「…ん?」
ってことは、この後に――…
そこまで考えたところで、自分の足元に黒い影が射す。
「希未」
「うわっ」
顎に手を当て考えていると、なぜか臨也さんがわたしの方に寄ってきていた。
ちょっ、まじ勘弁してくださいよ。帝人も杏里ちゃんもすっごいこっち見てますよっ。
「…何ですか」
「今日は帰りが遅くなるかもしれないから、俺の分の夕飯はいいよ」
「…仕事ですか?」
「ううん、趣味かな」
そこまで言われて、これから起きることがわかった。
…ああ、そうだ。
確かこの後臨也さんとセルティは帝人の家に行って、そして。
「あー!忘れてたー!す、すみません!今日はちょっと急ぐので!じゃ、じゃあ園原さん、僕はこれで!」
「え……あ、は、はい」
そんな帝人と杏里ちゃんの声が聞こえたのと同時に、臨也さんが歩き出す。
…そっか、なるほどね。今日は“アレ”が起こる日なんだ。
「えっと、園原さん」
「あ、柴崎さん…」
「希未でいいよ。杏里ちゃんって呼んでいい?」
「あ、はい…」
帝人とセルティ、そして臨也さんが歩いていくのを見ながら、どくどくする心臓を押さえて声をかける。
何が何だかわからないって顔してるけど…まあ、無理もないよね。
「えーっと…良かったら、途中まで一緒に帰らない?」
「は、はい」
少し強引だったかな、と思いながらも彼女の手を引いて歩き出す。
…ううううん、どうしよう。
「…杏里ちゃん、あのね」
「はい?」
「今日の夜は、絶対に家から出ちゃだめだよ」
動き始めてしまう。
けどきっとわたしには止められないし、今はこれくらいしか出来ることはないんだと思うから。
「絶対に。約束してくれる?」
「あ、はい…」
どうしてそんなことを言うんだろう。
そんな表情をした杏里ちゃんを横目に、わたしは岸谷さんの家までの道を歩いた。
わたしに、できるだろうか
(この世界を変えることは、誰かのためになるのだろうか)
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