「お、来たか」

「そうみたいですね」


ピンポン。
夜にも関わらず、待ち続けた音にドアを開ければ、そこにはいつもと同じ姿の門田さんが立っていた。


「遅くに悪いな」

「すいません、本当に」

「おう、気にすんな」


何やら工具を持った門田さんを家に上げれば、「あちぃな」と門田さんがつぶやく。
そうでしょう暑いでしょう。静雄さんがキレそうになるのも当然でしょう。


「ああ、これならすぐ直るぞ」

「本当ですか?よかったー」


わたしたちが安堵のため息を吐いた瞬間、工具を取り出した門田さんがガタ、とエアコンの蓋を取る。
正直門田さんが何をやってるのかはわからないけど、とりあえず直ってくれさえすればなんだっていい。

そしてわたしがそんなことを考えた瞬間、玄関の方から音が聞こえてきた。


「お邪魔しまーす!」

「お邪魔するっすよー」


音と声に反応して玄関の方を覗いてみれば、そこには案の定狩沢さんとゆまっちさん。
恐らく渡草さんは車の中に残っているんだろう。


「お前らな…勝手に人の家上がるなよ」

「えー、だってドタチン遅いんだもん」

「まだ車降りて5分くらいしか経ってないだろ」

「それに、美尋ちゃんが住んでる家っていうのも興味ありますからね〜」


姿を現した2人に特に何か言うこともなく、静雄さんは煙草を取り出し火を点ける。
いや、わたしは静雄さんがいいならいいんですけどね。


「よし、多分これでつくぞ」

「おおお!」

「ほら美尋、リモコン」


テーブルの上にあったリモコンを静雄さんに渡され、祈りを込めながら運転ボタンを押す。
どうか…どうかお願い!


「おおお!ついた!つきましたよ!」

「あー…涼しいな」

「ありがとうございます門田さんっ」


深々と頭を下げて門田さんにお礼を言えば、「この程度、」という謙遜の声が降ってくる。
いやいやいや、本当にありがたい。


「よかったですね静雄さん、これで夜寝られます」

「おう。悪かったな門田」

「気にすんな。確かにあの暑さじゃ寝られねぇよな」


苦笑しながら笑う門田さんを見ながら、冷蔵庫から出した飲み物を静雄さんの前に置く。
…あ、せっかく来てくれたんだし、何も出さないってのは失礼だよね。


「門田さんたち時間あります?よかったらお茶でもどうぞー」

「気ぃ遣わなくていいぞ。別にエアコン直しただけだし」

「いやいや、わたしたちにとっては一大事だったんですから!」


はいどうぞ、とお客さん3人分の飲み物を出す。
そういえば渡草さんは車の中か。1人で暇だろうに、大丈夫かな。


「それにしても片付いてるね〜」

「そりゃ美尋ちゃんがいますから!」

「いやいや、美尋っちだってバイトしてるんだし大変でしょ」

「そんなことないですよ。もともと家事は好きですから」


自分の意思でバイトやってるんだから家事はおろそかに出来ない。
そんな思いはあるものの、静雄さんがいる手前だ。そんなこと言って気を遣わせるわけにはいかないと、その言葉は飲み込んだ。


「そういやこんな時間まで何やってたんだ?」

「ああ、ちょっとな。仕事みたいなもんだ」

「へえ、大変だな。こんな遅くまで」


静雄さん平気で夜中までお仕事してる時あるじゃないですか。
という言葉も飲み込んでおく。好きでそんな時間まで働いてるわけじゃないしね。


「…よし、そろそろ行くか」

「えーもう帰るの?」

「遅くに長居するのも悪いし、お前ら車ん中に渡草残してきてんだろ」


やっぱり渡草さんは置いて来ていたらしい。
せっかくだからって飲み物出したけど、渡草さんに悪いことしたかな。


「じゃあな、静雄、大槻」

「おう」

「本当にありがとうございました」

「いいって。じゃあまたな」

「美尋っちばいばーい」


玄関まで見送りにきたわたしたちに、門田さんたちがそう別れの言葉を告げる。
…ふむ。あの人たちがいないと一気に静かになるな。


「門田さんが来てくれて助かりましたね」

「だな。すげー涼しい…」

「エアコンって偉大ですねえ」


顔をエアコンに向けたまま、だらだらと過ごすわたしたち。
普段静雄さんを恐れている人たちが見たら、きっとびっくりするだろうなあ。


「美尋、アイスとってくれ」

「だめです。アイスは1日一個までです」

「何でだよ」

「暑いからって冷たいものばっかり食べてたら体壊しますよ」

「…俺さっきの全部食ってねぇぞ」

「………」


確かにそうだ。
途中で食べるのをやめた静雄さんのアイスはすっかり溶けてしまったし、わたしも食べかけのまま門田さんに電話をかけて今に至る。


「じゃあ半分こしましょう」

「2つに分けられるやつあったか?」

「あ、モナ王ありますよ」


2人して冷凍庫の中を覗いてる光景はさぞ間抜けだろう。
けど、こんなひと時がわたしにはすごく楽しい。


「それじゃ、こっちが静雄さんの分。こっちがわたしの分」

「お前の分少ないだろ」

「上手に割れなかったし、暑さにキレなかったご褒美に多い方あげますっ」

「おう、サンキュ」


ご褒美に、だなんて言い方をして怒られるのではないかと言った直後に思ったけど、どうやら彼の地雷は回避出来たらしい。

真新しいTVを見ながら、静雄さんと一緒にアイスをほおばる。
こんなひと時が、すごく幸せ。



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