ガタン、ゴトン。
窓の外に広がる夕焼けを見ながら、ああ陽が伸びてきたなあ、なんて考える。


ガタン、ゴトン。
揺れる電車の振動も座席のあたたかさも、あまり人の多くない車内も、何もかもが心地良かった。
でもただひとつ、わたしより先に君が降りてしまうこの駅が、わたしは大好きで嫌いだった。


「…ん、」


ああ、もう着いてしまったんだ。
ぼうっと車窓を眺めていたわたしを現実に引き戻したのは、次の停車駅を知らせる車内アナウンスだった。

もしここでわたしが彼に触れなければ、彼はきっと目を覚ましはしないだろう。
それはまだまだ彼と一緒にいたいわたしにとっては幸せで、わたしの肩に頭を乗せて気持ち良さそうに眠る彼にとっても、きっと幸せなことなんだと思う。だって彼は部活で疲れていて、眠りたい時に眠れているのだから。

けれど、そうするべきだ、あるいはそうしなきゃいけないという気持ちが、自分の感情を上回ることはない。
だからわたしは今日も自分の心に反し、彼の腕をわずかに揺すって互いの幸せな時間に終わりを告げる。


「…切原くん、」

「…………」

「切原くん」

「んんー…」


2度も彼の名前を呼んだことを、ぱちぱちと繰り返される瞬きに後悔した。
ああ、どうして1度目でやめておかなかったんだろう。
そうすればわたしは幸せで、彼はまだ眠れて、もし「何で起こさなかったんだよ」なんて言われても「名前呼んでも起きなかった」と屁理屈まがいの事実を彼に伝えることが出来たかもしれないのに。


「もう駅着くよ」

「…んー…」

「…起きないの?」


1度目で、と思っているのに声をかけてしまうのは、保身のためなのだと気付いていた。
彼と一秒でも長く一緒にいたいという気持ちを隠すのはすべて彼のため、なんて言ったらかなり押し付けがましい気もするけれど、事実彼は明日の朝だって部活がある。(それも時間がかなり早い)
けれど彼に何度も声をかけた上で駄々をこねられたら、それこそわたしが望む一番の形なのかもしれない…なんて、堂々めぐりを繰り返す。


「…苗字、」

「…ん?なに?」

「終点着いたら、…起こして」


いつもよりも更に幼い声、舌っ足らずな話し方。
寝起き特有の呻きのようなものではなく、ちゃんとした言葉だったからこそ知ることのできた、切原くんの一面。
そのすべてに胸が高鳴って、今寝ちゃって今夜寝られるかとか、明日の朝大丈夫かとか、そういうことの全部が全部どうでもよくなってしまうわたしは、マネージャー失格かもしれない。

けれど、


「…おやすみ、切原くん」


マネージャーである前に、わたしはひとりの恋する乙女なのです。
もし切原くんが真田副部長や幸村部長に怒られるようなことになったら、その時はわたしが全力でかばってあげようと、まぶしすぎる夕焼けに誓った。
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