「あ…ん、っ…」
「やっぱり若い子はいいね、肌が吸い付くようだよ」
おおきなベットをぎしぎしと揺らしながら、そう言った男は首元にキスを落とす。
吸われてる感じはしないから、一応跡はつけていないらしい。
「どう?気持ちいいかい?」
「ん…っきも、ちぃ…」
思ってもないことを返せば、脂ぎった顔をくしゃっと歪ませて笑う。
ものすごく気持ちが悪い。
「じゃあ張り切っちゃおうかな」
「ん、…もっと、して」
サイドテーブルに置かれたオレンジの照明が、ほんのりと男を照らす。
ああ、見なければ、目をあわさなければよかった。
そう思ってしまうほど気持ちの悪い男は、欲にまみれた目で笑う。
「 あ、っ」
汚い手で触らないで、なんて、わたしが言えたことじゃないか。
趣味の悪い天井を見上げながら考えれば、自分自身の甘い声に吐き気がした。
***
「はい、今日の分」
「ありがと」
わたしを散々かわいがった汚い手から、いつものように茶封筒を受け取る。
…うん、厚み的にはいつもより多いみたい。頑張った甲斐があった。
「じゃあまたよろしくね」
「はーい」
今日は一段とねちっこかったけど、これでしばらくは会わなくて済むなあ。
わたしのそんな考えも知らずに次回を匂わせたおじさんは、シャワーを浴びた後だというのに相変わらず脂ぎった顔で笑った。
「……5枚、か」
おじさんの背中を見送って、こっそり封筒の中身を確認する。
……あんだけ色々やってやったのに、いつもより2枚多いだけか。
「…まあいいや」
小さく息を吐いて足を一歩踏み出せば、秋独特の冷たい風が頬を撫でる。
マフラーに顔をうずめたのに全然あったかくないのは、髪がまだ生乾きだからかな。
「……帰りたくないな」
とは言え、補導されかねないからいつまでもうろちょろもしていられない。
寒さと憂鬱さで重くなる足を引きずりながら、大嫌いな家へと向かった。
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