もう、嫌だ。
最悪な気分で何とか学校にたどり着いたわたしを迎えたのは、腹が立つほど明るい人たちの声だった。
「あ、おはよう飯田さん」
「ああ、田中くん…」
「…何か元気ないけど、どうかしたの?」
「ううん。何でもないよ」
ありがとう、と付け加えてガタンと引いた椅子に座ったけれど、視界の隅に見えた彼は不思議そうな顔をしていた。
あー…頼むからそんなに見ないでくれないかな。っていうか見ないで。いやもう見るな。
「(……うざい)」
そんなことを考えていると、ブレザーのポケットに入れていた携帯が震えていることに気付いた。
こんな時に何、面倒くさいな。
そう思う半面、隣の席に座る彼から解放されたい一心で携帯を開くと、
【顔色が悪いな】
ただ一言、そう書かれていた携帯の画面をじっと睨む。
…同じ教室にいるのに何でわざわざメールなんてしてくるの。
いや、普段から学校で話しかけるなって思ってるのはわたしだけどさ。
【何でもない】
【具合が悪いのか?】
【何でもないって言ってんじゃん】
いつもより刺々しい自覚は大いにある。
けれどそれに対する罪悪感なんてものは、1ミリたりともありはしない。
だってわたしは何でもないって言ってるんだし、田中くんと違って頭も良ければわたしのことも知ってる君なら、今わたしが最高に不機嫌なことくらいよくわかってるでしょ?
そう思いながら、彼すらも遮断しようと携帯をポケットに閉まった時。
「飯田」
「…え、?」
「…やはり顔色が悪いな」
いつの間にわたしの席のところまで来ていたのか、柳くんがわたしの顔を見て納得したようにうなづく。
ちょ、っと。何あんた、何でわざわざ、っ、
「保健室に行くぞ」
「いや、わたし大丈夫だから、」
「具合が悪いことくらい顔を見ればわかる」
無意味なやせ我慢をするな。
そう言ってわたしの手をやんわりと掴んだ柳くんは、優しく、けれど強制的にわたしを立たせる。
「え、っちょ、」
「田中、もし先生に何か言われたら、保健室に連れて行ったと伝えておいてくれ」
「あ、うん…」
ぽかんとした顔でわたしたちを見る田中くんを横目に、柳くんはすたすたと歩いていってしまう。
もちろん手を掴まれたままのわたしはそれに従って歩みを進めるわけなんだけど…わけがわからなくて、怒る気力も起きないよ。
「…ねえ、授業は、」
「お互い優等生なんだ、問題はない」
「…………」
それ、前にも聞いた気がするんだけど。
そんなことを思いながらも手を振り解けないのは、お腹が痛いからだ。
柳くんがいつもよりゆっくり歩いてくれてるからなんかじゃ、絶対に、ない。
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