無重力少女 | ナノ
「それじゃ美月、いい子にするのよ」


「……う、」


…最後にお母さんと過ごした日の夢だなんて、どれくらいぶりに見ただろう。
夢の中で撫でられた頭をさすりながら体を起こせば、枕のすぐ横に置いていた携帯が震えているのに気がついた。


【柳だ。ちゃんと登録してくれよ】


「…うっわ」


時刻はまだ21時。
どうやら振動音で目が覚めたようだけど、これはこれで最悪な寝覚めとも言えるだろう。

まくれ上がった制服のスカートを元に戻してカチカチと携帯をいじり、彼からのメールに返事を返す。
…適当でいいよね、うん。


【りょーかい】


パタンと閉じた携帯をベッドに放り投げ、体を起こして制服を脱ぐ。
学校から帰ってきて携帯をいじってるうちに寝ちゃったんだな、なんて考えながら、クローゼットから取り出したルームウェアに身を包む。


「……ん?」


脱いだ制服をハンガーにかけたところで、ベッドの上に置いたはずの携帯がまた震えているのに気がついた。
え、柳くんじゃないよね。
…と、思ったのだけど。


【返信が来るとは思わなかったよ。意外だった】

【返さない方が良かったのかな】

【そんなことはないさ。ありがとう】


…っていうか、柳くんこそ、【りょーかい】に返信してくるとは思わなかった。
最低限のやりとりだけで済ませるタイプだと思ってたんだけどな。


「………」


そんなことを考えていると、現実に戻って来いと言わんばかりにお腹が鳴った。
最後に食べ物を食べたのはお昼だから…そりゃお腹が鳴るのも当然だ。


【突然だけど夜ご飯何食べた?】

【本当に突然だな。煮物と焼き魚だが】


煮物と焼き魚。
何を食べようか、と迷って参考にすべく聞いてみたものの、手間もかかるしまったくもって作る気が起きない。


【わかった。カップラーメンにする】

【どういうことだ?】

【夜ご飯の参考にしようと思ったけど、煮物と焼き魚なんて作る気起きない】

【しかしカップラーメンは感心しないな】


自分で作る立場になってから言え、と入力しかけてクリアキーを連打する。
…駄目駄目、こんなの柳くんに言う必要ないんだから。


【感心しなくて結構。じゃあね】


それだけ打ってパタンと閉じた携帯を、枕の下にぐっと押し込む。
部屋を出てしまえばきっとバイブの音なんて届かないけれど、それでもわたしは、枕の上にシーツをかぶせて耳を塞いだ。

 
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