「飯田ー」
「はい」
「次の授業の教材運んどいてくれないか?」
「わかりました」
面倒くさいな、何でわたしがやらなきゃいけないの。適当にその辺にいる人に頼めば良いのに。
心の中でそんなため息吐きながら、ガタンと音を立てて席を立つ。
「あっ、でもお前1人じゃ大変か」
「え?」
「そうだな…柳ー」
先生の言葉にぽかんと口を開けたまま、名前を呼ばれた彼の方を向く。
相変わらず本を読んでいたらしい柳くんは文字を追うことをやめ、廊下から顔を出す先生を見た。
え、ちょ、勘弁して。
「何ですか?」
「飯田に教材運ぶの頼んだんだが、女子1人には量が多くてな!一緒に行ってやってくれないか?」
「ええ、構いませんよ」
「おう、それじゃ2人とも頼んだぞ!」
いや、もう本当に勘弁してほしい。
女子1人には多い量なら、男子1人に行かせればいいじゃん。
何だよ今まで2人で教材運べだなんて頼んだことなかったくせに先生の馬鹿!
「飯田」
「な、何?柳くん」
「行くぞ」
あーもう、ほんとむかつく。何その『残念だったな』みたいな笑顔!
今すぐにでも文句を言ってやりたいけど、グッと堪えて笑いかける。
歩き出した柳くんを追いかければ、前からかみ殺したような笑い声が聞こえた。
***
「これを持っていけばいいようだな」
「…そうらしいねー」
「どうした。不機嫌なのか?」
白々しく尋ねてくる柳くんは、わたしよりはるかに多い教材を手に嫌な笑みを浮かべる。
…あんたのせいだって言えたらどんなに楽かと思うけど、実際柳くんは何も悪くないんだよね。
「…そんなことないよ」
「本当か?」
「だってわたしも柳くんも先生の指示に従ってるだけでしょ」
「ほう…」
意外だな、と言いながら、本当に意外そうな顔をした柳くん。
噂によるとデータ(?)を集めるのが趣味らしいし、どうやらわたしは彼の予想に反した答えをしたようだ。
「お前は本当に興味深いな」
「そう?」
「ああ。俺の予想を見事に裏切る」
「…それって、まだわたしのことよく知らないからじゃないの?」
だって関わるようになってからまだ数日だし、いくらデータを取るのが趣味でも何でもわかるってもんじゃないだろう。
むしろこの程度の付き合いでいろいろわかられてたら怖いわ。
「いや。大体の人間には行動や思考のパターンがあるから、注視していれば言動を読むことも難しくない」
「…わたし難しいの?」
「まだわからないが、さらに興味をそそられたのは確かだ」
わたしは今のところ大丈夫みたいだけど、やっぱり柳くんは怖い人だった。
これからもっと関わるようになったら、わたしの考えてることとかみんな読まれちゃうのかな。いや、これ以上関わるつもりなんてないけどね?
「そろそろ戻るか」
「うん」
両手がふさがってる彼の代わりにドアを開ければ、ありがとう、と声が降ってくる。
別に、というわたしの言葉に彼が笑ったけど、気付かないふりをした。
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