「最近変なこと多いんですよねえ」
『変なこと?』
わたしの言葉を聞いた静雄さんは、怪訝そうにそう返した。
「そうなんですよ。なんか家のポストにわたしの写真いっぱい入ってたり、携帯に無言電話かかってきたり」
『…おい、それ完全にストーカーじゃねぇか』
「えー、考えすぎですよー」
数週前と同様、静雄さんと電話をしながらの帰り道。
少し焦った様子の静雄さんに反し笑いながら歩く夜道は、昨日とは比べ物にならないくらいに穏やかだ。
『後つけられてる感じはしねぇのか?』
「毎日ではないんですけど、たまーにですね」
『何で早く言わねぇんだよ』
「だって毎日じゃないんですもん」
それに、ちょっと不安だからこうやって静雄さんに電話してるんですよ。
そう言うと静雄さんは少し間を置いたあと、もう1度口を開く。
『バイトがない日は明るいうちに帰れよ』
「はい」
『バイトの日は終わったら俺に連絡しろ。送れる日は送ってくから』
「いや、そんな、」
『わかったな?』
有無を言わさない声色の静雄さんに意見なんて出来るわけもなく、はい、と言わされてしまう。
そんな心配しなくても、多分ただの勘違いだと思うんだけどなあ。
あ、写真とか無言電話は別として、後をつけられてるってやつに関してはね。
『セルティには俺から行っておくから、俺が送れない時はあいつに迎えに来てもらえよ』
「え、それはさすがに…」
『何かあってからじゃ遅いだろ』
「でも…」
静雄さんに迷惑をかけるのも申し訳ないのに、セルティまで巻き込むわけにはいかない。
そうは思うけど、静雄さんは本当に心配してくれてるわけだし…どうしたらいいものか。
『セルティが仕事の時は明るい道通って新羅の家まで行くかしろよ。あいつん家までの道は人通りも多いし』
「そ、そこまで迷惑かけるわけには…」
『文句あんのか?』
「…わかりました」
やっぱり静雄さんは心配性だなあ。
最初はただの世間話のつもりで話したことだったから、静雄さんがここまで言ってくれるなんて思わなかった。
静雄さんには申し訳ないけど、こんなに心配してくれてるのは、ちょっと嬉しかったりする。
「あ、今家着きました」
『じゃあちゃんと戸締りして寝ろよ』
「はーい」
それじゃあまた。
どちらともなく電話を切り、言われた通りに玄関の鍵をかける。
ふと気になったドアポストの中に入っていた紙とそこに書かれた文字を見て、眉をひそめながらそれを破った。
******
「おう、新羅か?」
仕事も終わった0時過ぎ。
美尋の言葉が頭を離れないまま新羅の携帯に電話をかけた。
『どうしたんだい、君がかけてくるなんて珍しいね』
「美尋のことなんだけどな。あいつもしかしたらストーカーに遭ってるかもしんねぇんだ」
『え、ストーカー?』
どういうこと?
電話の向こうの新羅は、俺が美尋から話を聞いたときのような怪訝そうな声でそう言う。
あいつは考えすぎだなんて言ってたが、美尋は女で、しかもまだ高校生だ。
夜遅くに帰んのは危ねぇし、まあ気をつけといて損はないだろ。
「何か家のポストにあいつの写真が入ってたり、無言電話かかってきたりするらしいんだよ。ああ、あとたまにつけられてる感じもするみてえだな」
『うわ、定番だね』
「で、頼みがあるんだけどよ」
『何?』
「美尋がバイトある日で俺が送ってやれない時、セルティにあいつ送ってもらいてえんだけど」
『ああなるほど、そういうことね。セルティ!ちょっと来てくれるー?』
そう言った新羅はセルティを呼び、俺がした話をセルティに聞かせる。
声は聞こえないが、新羅が言うにはどうやら了承してくれたらしい。
『でもセルティが仕事の時もあるだろうし…その時はどうするつもり?』
「門田たちに頼もうかと思ったんだけどな、それだとあいつが気ぃ遣うだろうからお前んとこ行かせるわ」
『わかった。うちまでの道は比較的人も多いけど、念のため僕も極力迎えに行くようにするよ』
「悪いな」
『何言ってるんだい、僕らの子どものことなんだから当然さ!』
新羅の発言は無視するとして、とりあえずこれで少しは安心出来る。
美尋の警戒心のなさに心の中でため息を吐きながら、すべてあいつの勘違いであってほしいと願った。