普通なんてつまらない。

そういうことって、誰でも一度くらいは思ったことあると思う。
ありきたりで変わり映えのしない日常を退屈に感じて、そんな毎日に、なんらかの刺激を求める人もいるだろう。

けれど非日常なんてのは、そんな簡単に訪れるものじゃない。
たいていは自分が何か行動を起こすか、あるいは何かに巻き込まれるかの2つに分かれる。

そして人間という生き物はわがままなことに、訪れた非日常が自分の求めていたものと違った時、《どうして私がこんな目に》なんて思ってしまうものなわけで。


つまりはね。
私はこんな非日常、求めてなかったってことなんだ。



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「ふー…」


お世辞にも綺麗とは言えない、池袋の片隅のとあるアパート。
誰もいない真っ暗な家の電気を点けて、両手にぶら下がった袋をドスンと落とす。
…あ、やばい。卵入ってるの忘れてた!


「よかった、割れてない…」


卵が無事だったことにほっと胸を撫で下ろして、台所から続く6畳の部屋に足を踏みいれる。
1つは、制服から部屋着に着替えるため。

そして、もう1つは。


「…ただいま、お父さん、お母さん」


写真立ての中で微笑む2人にそう言うも、当然ながら返事はない。
でも、そんなのはもう慣れた。最初こそ寂しく感じたけれど、2年も経てば流石にね。


「…ご飯作ろ」


さて、今日は何にしよう。
多くはないけどご飯もあるし、卵は特売で買えたし、お肉もタイムサービスで安くゲットできた。
うん、ちょっと質素だけど、チャーハンくらいなら作れるかな。

着替えた部屋着の袖を捲って、よしと小さく気合を入れる。
そうして私は、今日も自分のためだけに包丁を握った。


 



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