―昼前 池袋某所 画廊ビル前―


…いい加減、美尋と会わせてくんねえかなあ。
ビルを出たと同時に見上げた空は青く、その下を歩く人々には笑顔が溢れ、俺の心境との落差についため息が出た。

美尋だって俺と同い年なわけだし、GWなんだからどっかしらで遊んでるだろう。
ダラーズのトップと話をつけなきゃならねえと思ったタイミングで、ちょうど美尋についての情報を仕入れることができたこともあって池袋に来たはいいが…美尋に関する情報の量に対し、実際の進まなさはどうだ。
美尋がどんな奴と交流があるかとか、卒業してるだろうとはいえ美尋がどこの高校に進学したかとか…
そういう情報はいくらでもあるのに、接触を図った平和島静雄には美尋の居場所を聞けなかったし、当然美尋には会えちゃいねえ。
…これ、やっぱノンが言ってたように避けられてんじゃねえのか。


「で、ダラーズの奴を見つけたって?」


街を歩いていると声をかけられ、入ってみた画廊。
気分切り替えねえと…なんて思いながら、そこから出た俺がTo羅丸の仲間に問いかければ、革ジャンを着たそいつは「ウス」と小さくつぶやいた。


「ダラーズの中では有名な奴で、遊馬崎ウォーカーとかいうハーフの奴らしいんすけど」

「妙な名前だな。今どこにいる?」

「それがその…」


そいつは一瞬言いよどみ、顎をわずかにあげて、目の前の画廊を指さした。


「千景さんが出てくるちょっと前に、女に勧誘されてそのビルに入っていきました」


その言葉に、ついさっき自分が出てきたばかりのビルを見上げる。
…二兎を追うものは一兎をも得ずってのは、よく言ったもんだな。
そう思いながらもどちらも譲れない俺は、ため息を吐きながら美尋のことを考えた。



******



―同時刻 池袋駅周辺―


「あ、門田さん」


杏里ちゃんと一緒にアカネちゃんを挟むようにして歩いていた、お昼前の池袋駅周辺。
確か最後に会ったのは、お鍋を食べた時だから――…


「おひさ、」

「その子、親戚か何かか?」

「…あ、いえ、知り合いのお子さんです」


お久しぶりですね、って言おうとしたんだけどな。
…でもまあ、数週間ぶりに会ったと思ったら知らない女の子を連れてるわけだし、こういう反応をするのも当然か。
そう結論付けて答えれば、釈然としないような表情の門田さんは「なるほどな」と言った。

アカネちゃんを元気づけたいね。
杏里ちゃんとそう話した結果、新羅さんに許可をもらったわたしたちは、アカネちゃんをお散歩に連れ出した。
まあお散歩といっても、杏里ちゃんが帝人くんたちと待ち合わせをしている池袋駅で、帝人くんたちと合流&セルティがアカネちゃんを迎えに来るまでの間に少し外を歩くくらいのものなんだけど…


「静雄は今日は仕事か?」

「あー…はい、」

「そっか。休みなのに大変だな」

「わたしもちょっと可哀相だとは思いますけど、仕方ないですよね」


はい、と言っていいのかはわからなかったけど、静雄さんの名前が出た瞬間、わずかに強さを増したわたしの右手に、そう言うことを強いられた気がした。
杏里ちゃんは杏里ちゃんで「この人もとても優しい人ですから、大丈夫ですよ」と言ってくれているし…握られている手の力が弱まったところを見ると、これで正解だったのだろう。


「じゃあ、俺は狩沢たちと合流しなきゃなんねえから。またな」

「あ、はい」


じゃあまた。
そう言い合って歩き出したわたしたちは、再び駅を目指す。

うん、やっぱりGW真っただ中ということもあって、いつにも増して人が多い。
昨夜杏里ちゃんが暴漢に襲われたことも考えると、危ないんじゃないかって新羅さんは言ってたけど…結論通り、この人の多さの中で襲ってきたりはしないだろう。わたしたちだって移動してるわけだしね。


「よし、着いたー」


そんなことを考えている間に着いたいけふくろうで、人混みに再び緊張した様子のアカネちゃんを安心させるべく笑いかける。

…ちょっと、色々とせわしなさ過ぎただろうか。
そう考えながら周りを見渡せば、わたしの陰鬱とした内心に反し、キラキラとしている人々に軽い吐き気を覚えた気がした。


 



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