――結局、美尋の情報は何も得らんなかったな。
いや、平和島静雄と関係があるっていうのがマジだっただけ、収穫はあったか。
つっても、足で探すっつーのはやっぱり――…


「…っちー、ろっちー?」

「っ、…ん?どうした?」


腕を揺すりながらそう声をかけられ、自分の思考が遠くに飛んでいたことに気付いた。
…いくら美尋のことといえ、女の子の前で上の空、心ここにあらずっつーのは最低だな。
そんな風に自嘲し、笑いながら返答する。


「ねえろっちー、どうしたの?」

「いや、何でもねえよ」

「…今日1日ってわけじゃないけど。ずっと誰か探してるみたいだったね」


じと。
そんな音が聞こえてきそうな視線で言われ、つい閉口してしまった。
…まあ、池袋で遊ぼうだなんていきなりだったもんな。


「女の子?」

「あー…まあな。でもノンが思ってるような奴じゃないからさ」

「思ってるようなって?わたしたちみたいなってこと?」

「ん」

「だから今日池袋行こうって言ったの?」

「そ。そいつが池袋に住んでるって話を風のうわさで聞いてな」

「ふうん」


――こんな風に何人もの女の子連れてるって知ったら、『ちーくんさいてー』とか言うんだろうな。
容易に想像できる美尋の反応を思い浮かべて小さく笑えば、ノンは不機嫌そうに俺の腕を引っ張った。


「ってて…何だよ、どうした?」

「だってこんなろっちー見たことないんだもん」

「え、妬いてんの?」

「何かろっちーっぽくなくて気持ち悪いだけ」

「…正直だなー、お前」


苦笑しながら言うも、悪びれる様子はない。

こう言われた手前話す必要があるのかはわかんねえけど――…
そう思いながら、前を歩く子たちに聞こえない程度の声で、独り言を言うかのように口を開く。


「…幼馴染だったんだけど、昔ちょっと色々あってさ。それ以来音信不通、同じ高校行く予定だったのが入学してみたらそいついねえし、色々調べたんだけど結局3年間わからずじまいでな」

「それって嫌われてるんじゃないの?」

「…いや、それ自分でも考えたけどさ。第三者に言われると結構クるものがあるな」

「だって明らかに避けられてるでしょ、それ」


露骨にうなだれてみても、ノンは気にするそぶりもなく話し続ける。
あああ、もうやめてくれ。会いたくないんじゃないだとかやめてくれマジで。俺の心折れそう。


「…けど、」

「…ん?」

「ろっちーがそこまで…何年もずっと探し続けてるってことは、本当に大切な人なんだね」


少し不満げなノンは、わざとらしく視線を逸らしながら言った。
その言葉がじわじわと俺の中に広がっていって、折れそうだった心に歯止めがかかる。


「何があったのかは知らないけど、ろっちーだもん。女の子にひどいことするわけないし、その人だってちゃんとわかってくれてると思うよ」

「………」

「本当は、ちょっとだけ妬いてる。いくら“そういうのじゃない”って言われても、ろっちーがその人のこと探してて、会いたがってて、大切に思ってるのは事実なんだもん」


拗ねたような口ぶりに苦笑しながら謝れば、「謝んないでよ」と返された。
けれど、その表情を見てみれば、俺の予想していたものとは違っていて。


「その人はきっと、ろっちーのこと嫌いになったりしてないよ。わたしが保障する」

「…根拠、なんかあんの?」

「ないよ。でも、ろっちーだもん」


碌な根拠じゃねえな、と苦笑する。
けどそうであってほしいと願う自分が、確実に存在していて。


「確かに妬けるけど、わたしは女の子のために頑張ってるろっちーが好きだから。だから、早く見つけてね」


わたしも、できることは協力するから。
そう言って笑ったノンの頭を撫でれば、美尋に会える予感がした。


 



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