「ごめんね、ちーくん」
「何でお前が謝るんだよ」
「だって私のせいで、」
「俺が勝手にしたことだろ。それに、お前は笑ってる方がいいよ」
「……う、」
パチ。
目を開いた瞬間の動悸と言ったら、それはそれはひどいものだった。
どうして突然こんな夢を見たのだろう。
そんなことはわからないけど、あの夢は確実に、私が実現したかった、あの日の彼との理想の未来だった。
なのにどうして、まるで悪夢を見た後のような不安感に襲われるのだろう。
「はあ…」
ずっと仲が良かった幼馴染。
なのにある出来事をきっかけに関係は崩れ、私は進学先の高校さえも変えて逃げるように埼玉を飛び出してきた。
あれから3年以上が経って、私を取り巻く環境は大きく変わった。
見た目だってあの頃よりは大人っぽくなっただろうし、新しい友達も、大切な彼氏もできた。
けれどその3年の間、私は何をして過ごしていたんだろう。
久々に彼の夢を見たかと思えば季節外れの汗をかいて、不安になって、眉間には皺が寄ってる。
結局のところ私は、まだ彼と向き合う覚悟ができていないのだろうか。
「…6時、」
もそもそと動いて携帯を見れば、まだ起きるには少しばかり早い時間だった。
けど目も冴えちゃったし、全身にかいたような汗も気持ち悪いし…
「…起きよ」
何も知らずに隣で眠る静雄さん。
確か私が眠るちょっと前に帰ってきたから、まともに話なんてできてないけど――…きっと、疲れてるだろうな。
その穏やかな寝顔を崩してしまわないように、とゆっくりベッドを出れば、関節がミシリとなった気がした。
「んん…っ」
部屋を出て、大きな伸びをひとつする。
せっかく早く起きたんだから、今日は静雄さんのことも早めに起こして、気合を入れた朝ご飯でも食べてもらおうか。
…あ、でも帰り遅かったし、寝かせておいてあげた方がいいかな。
でもまあ、作っておく分には問題ないだろう。最悪夜ご飯に回してしまえばいい。
けれどその前に、全身に広がったこの汗を流してしまおう。
そう思いながらお風呂場に向かった私は、汗と一緒にあの夢さえも、流してしまえるのだと思っていた。