洗いざらい吐くというのは、こういうことを言うのだろう。
確かにわたしは隠し事をしていた、ということにはなるのかもしれないけれど、それは悪意があってそうしていたわけじゃない。
単に恥ずかしかったからであって、そこには悪意なんて微塵もない、むしろかわいいものだということをしっかりと理解していただきたいのだけど、
まあ、つまりは。


「黙っててごめんなさい」

「それでいい」

「………」


ぺこ、と頭を下げて言えば、少しだけ不満が残っているような声で静雄さんが言った。
うう、確かに黙っていたのは、悪かったかもしれない。
でもわたしはカフェって言ってたし、いや実際カフェだし、メイドって言葉がついてるからって男の人ばかり来るわけじゃないし…!
なんていくら理由を挙げたところで、きっと言い訳にしかならないのだろうからやめておくけどっ。


「着いたぞ」

「あ、はい…」


気付けば新羅さん宅のドアの前まで来ていたようで、静雄さんは迷うことなくドアノブへと手をかける。
…ギィ、という音を立てて開いたドアはきっと不用心だとかそういうことじゃなくて、わたしたちが来るからってことで、開けておいてくれたんだろうな。


「やあ2人とも、久しぶりだね。もう食べ始めてるけど、食材はまだまだあるから安心していいよ」

「…いや、あの、ずいぶん多いですね」


新羅さんの言葉なんて耳に入らないくらい、そう、本当にそれくらい、そこにはたくさんの人がいた。
まあ玄関に脱ぎ捨てられた靴を見た時点でなんとなく気付いてはいたけど…うん、実際に人の姿を目にすると、結構な数がいるものだ。


「とりあえず知り合いはみんな呼ぼうってことになってね」

「ああ、なるほど」


それは20畳近くあるはずのダイニングも狭く感じるわけだ。
ザッと数えただけでも10人くらいはいそうな人々の顔を見ながら、わたしはうんうんと頷く。


「あ、美尋さん、こんばんは」

「おお杏里ちゃん、帝人くんもこの前ぶりー」

「こんばんは」


笑顔を浮かべてこちらを向いた帝人くんと杏里ちゃんだけど、帝人くんはわたしの後ろにいる静雄さんを見て、少しだけ緊張したような面持ちになる。
…あ、そっか。
杏里ちゃんは罪歌の件の時にも静雄さんに会ってるし、この場所で偶然居合わせたこともあったけど、帝人くんは同じ空間にいたってことがあまりないんだろうな、きっと。


「美尋、かばん」

「あ、はい、ありがとうございます」

「ん」


渡せと言わんばかりの表情と手でそう言われ、手にしていたバッグを静雄さんに預ける。
きっとその辺に置いといてくれるんだろう。


「…っあ、良かったらここどうぞ。園原さん、少し詰められる?」

「あ、はい」

「ごめんね、ありがとー」


帝人くんたちが開けてくれたスペースに座れば、わたしの隣に静雄さんも腰を下ろす。
ふんふん、みんなの取り皿を見る限り、まだ食べ始めたばかりのようだ。


「あ、静雄さんお皿どうぞー」

「おう、サンキュ」


静雄さんに取り皿を渡し、自分のお皿を手にお鍋を眺める。
うーん、どれから食べ始めようかなあ。
本当はお肉食べたいけど、帝人くんや杏里ちゃんもいるし、ここはやっぱり野菜から食べた方が―…


「美尋」

「っは、はいっ」

「好きなもん食えよ」


突然名前を呼ばれたから何かと思えば。
けれどその言い方は命令と言うには優しすぎて、葛藤しているのが気付かれていたことが恥ずかしい半面、嬉しかったりも、するわけで。


「何なら入れてやるから、貸せ」

「えっ」


半ば強引に奪われた取り皿の中に、お肉やお豆腐、白菜など、具材が次々と積まれていく。
うわあ、ちゃんと野菜も入ってるけど、お肉たくさん。


「ほら」

「…うひひ、ありがとうございますー」


へら、と笑ってそう言えば、静雄さんも少しだけ笑う。
湯気がもくもくと上がっているせいで他の人たちの顔はうまく見えなかったけど、この空間の熱気すらも、わたしには愛しかった。


 



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