「え、ちょ……え?」
何だこれは、どういうことだ。
あれからトンネルの方に戻ってきたわたしたちは、目の前の光景に目を丸くしていたんだけど―…どうやら事態を把握できていないのは、わたしだけではないらしい。
「っあ、杏里ちゃん!」
「あ、美尋さん…」
やっぱり杏里ちゃんもこっちに来てたんだ。
トンネルの入り口に立つ彼女を見つけて安心したけれど、その表情には困惑の色がはっきりと表れていた。
「…これ、何が起きてるの?」
「わたしもよくはわからないんですけど…」
「…何かすごいことになってるね」
一瞬杏里ちゃんに向けた目をトンネルの中に戻せば、セルティの影によって手足を縛られている暴走族たちと、包帯でぐるぐる巻きになってる人と、なんだか中世っぽい甲冑をまとった、首から上がない騎士の姿。
すごいことっていうのは、もちろん後半2つに関してなんだけど。
「はあ…」
ちょっとびっくりしただけでそこまで混乱しないだなんて、わたしもずいぶん慣れたものだなあ。
まあ一番は、セルティの味方をしてくれているみたいだからだけど…なんて、目の前に広がる光景にため息を吐いた時、セルティがこちらを向いたのがわかった。
「…?」
スー、っと伸ばした影の先にPDAを持ち、2人の“すごい”人(?)たちに見せたセルティは、門田さんたちの方をちらりと見て何か合図を送る。
…え、あれ。もしかしなくても、こっちに近づいてきてない?
「わッ、!」
お腹のあたりを影でつかまれバイクに乗せられたわたしたちの頭には、これまた影でできたヘルメットが被せられる。
「え、あの、セルティ?」
《大丈夫、ここはあいつらに任せるから》
わたしたちにそう書かれたPDAを見せてきたかと思えば、ものすごい勢いで走り出すバイク。
ちょ、っちょ、セルティ!3人乗りになってる、違反だよこれ!違反!!
「はああああ…」
けど、今はそんなこと言ってる場合じゃないんだよな…
ヘルメットの中で深いため息を吐いたわたしは、少し窮屈なバイクの後ろに乗りながら、セルティのお腹に手を回した。
******
「ありがとセルティ」
《大丈夫だよ。変なことに巻き込んでごめんね》
「いやいやそんなっ、セルティに会うより前に遭遇してたし」
気にしないで、という思いを込めて笑えば、《怪我ひとつしなくてよかった》と首のないセルティが笑った気がした。
あの場から助けてもらっただけじゃなく家まで送ってもらったのに、そんなセルティにどうして文句が言えるだろう。
《それじゃ、静雄によろしくね》
「うん、わかった」
《じゃあまたね》
「ありがとね」
頷いたセルティから杏里ちゃんに目線を移せば、彼女も同じように、わずかに笑って頷いた。
せっかくだから2人にも上がっていってもらいたいけど、今日はいろんなことがあったし…うん、また今度にしよう。
「それじゃ気を付けてね」
「はい。今日はすみませんでした」
「何で謝るのー」
ヘルメットの上から杏里ちゃんの頭を撫でれば、セルティがバイクのエンジンをふかす。
走り去る彼女たちの背中を見つめながら、目的だった日用品を買っていないことも忘れていたわたしは、胸を撫で下ろして家のドアを開けた。