「がッッ!?」
あら。
「あぁぁぁっぁッ!」
あらら。
「覚えてろよ!そこのバンダナ!」
あらららららら。
あくまで自然な流れで隅っこに追いやられたわたしは、バッグと荷物を胸に抱き締め、その光景に目を丸くした。
いきなり門田さんたちが現れたことにも十分驚いたけれど…
それは抜きにしても、まさかマイルちゃんとクルリちゃんが蹴ったり何だりするだなんて、思いもしなかった。
「メイドさんッ」
「あ、マイルちゃ、」
「痛(怪我は)…?」
「クルリちゃん、あ、えっと」
たった1人、お決まりの捨て台詞を吐いて逃げて行ったチンピラを見ていると、いつの間にすぐ傍まで来ていたのか。
マイルちゃんがわたしの手をぎゅっと握り、クルリちゃんがそう問いかけてきた。
「あの、2人とも、ごめんね。わたしは平気だけど、2人も、大丈夫?」
「うんッ、どこも怪我してないよ!ごめんねメイドさん、怖かったよねッ」
「謝(ごめんなさい)」
「そ、そんなっ…何で2人が謝るの、わたしが余計なことしなければ、こんな…」
「そんなことないよっ!」
本当かなあ。
2人の動きっぷりはすごくて、むしろわたしがいない方がすんなり状況を打破出来たんじゃないかって思ってしまう程だった。
特にマイルちゃんの動きはそれはもう華麗で、表現が間違っているかもしれないけど、惚れ惚れしてしまうくらいだったし…
っていうか、年下に「怖かったよね」って心配された。お姉さん少し悲しい。いや、あれだけ動ける子たちだから、これが普通なのかもしれないけど…
「通報されてっとヤバイし、本当に仲間呼ばれても面倒だから逃げるぞ」
「あ、門田さん…」
「美尋っち大丈夫?」
「どこも怪我してないっすか?」
マイルちゃんたちの後ろから門田さんがやってきた。
それに続いてやってきた狩沢さんとゆまっちさんは、どうやら伸されたチンピラたちを縛り上げていたらしい。
「お前ら、臨也の妹だろ?」
「ええッ!?イザ兄の知り合い!?…あ、そういえば一回だけ会ったかも!」
「……え、…えええええッ!」
ちょ、ちょ、っちょちょっとととちょっと待って。
臨也さんの妹?イザ兄?ちょっとちょっとどういうことなのそれ、クルリちゃんとマイルちゃんがあの臨也さんの妹?
一気に流れ込んできた衝撃的過ぎる事実に脳内がぐちゃぐちゃになって、立ちくらみとか目まいとかが酷い。
その間にもクルリちゃんは門田さんに普通にお礼言ってるし、多分、この場でこんなに混乱してるのは、わたしだけなんだろう。
そう思いながらもとりあえずはお礼をと、無理やり心臓を落ち着かせるために、胸のあたりにそっと手をやる。
「あ、あの…門田さん、すいません。ありがとうございます」
「いや、怪我してねえならいい。とりあえず、どっか行くんだったらツレに車まわさせっけど、どうする?」
「わあ、いいの!?」
「まあ、北海道まで行けとか言われても無理だけどな」
わたしの手を離したマイルちゃんは、苦笑しながら言った門田さんの言葉に、ぶんぶんと手を振る。
「えっとねー!わたしたち、今日は一日池袋でブラブラする予定なの!知り合いから連絡が入るはずなんだけど、いつ、どこに行かなきゃいけないかは電話が来るまでわかんないの!」
「…なんだそりゃ?」
いつどこに行かなきゃなんて、そんなの最低限必要な情報だと思うんだけどなあ。
門田さん同様ハテナマークを浮かべ、小さく首をかしげる。
「…まあいいや。後ろの2人が今日はお前らんとこの学生と池袋巡りらしいからよ、それにくっついてりゃいいんじゃねえか?」
「んー。別に問題ないんじゃないかな」
「問題ないっすよー。その子たち、どことなく二次元キャラっぽいし」
「黙れ」
相変わらずなゆまっちにさんに門田さんがため息を吐き、わたしも思わず苦笑した。
そして門田さんはわたしに視線を向けて、
「大槻も乗っていけよ、どこか行くところだったんだろ?」
「…あ、」
そうだ。
あんなことがあったからすっかり忘れちゃってたけど、そういえばわたし日用品を買いに来たんだった。
「えっと、わたしは大丈夫ですよ?」
「…聞いといてっつーか何つーか、アレだけどよ。静雄のこともあるし、何かあってからじゃまずいから乗っていけ」
ふむ、門田さんの兄貴っぷりも健在である。
とはいえ最初から乗ってる4人に加え、マイルちゃんとクルリちゃんも乗ることが決まった今、わたしまで乗せてもらって迷惑にならないだろうか―…と、問おうとした瞬間。
「えッ、静雄さん?メイドさんって静雄さんと知り合いなのッ!?」
「え、え?」
「驚(偶然…)」
ちょっと、どういうことですかこれ。
本日2度目の衝撃的な出来事に再び頭がこんがらがりそうになった時、
「そこんとこの話も含め、詳しいことは後でゆっくり話せよ」
とりあえず移動するぞ。
携帯を取り出して渡草さんに連絡を入れた門田さんは、「行くぞ」とわたしたちに声をかけて歩き出した。