セルティにはメール返すの忘れちゃったし、チャットにも顔出せなかったなあ。
それでも幸せな時間を過ごせたと緩む頬をおさえながら、人の多いサンシャインの傍を歩く。


「えーっと、あとは…」


携帯を取り出し、買い物リストを確認する。
…漂白剤とかこの前も買った気がするけど、わたしの気のせいかなあ。
まあそれでも、前の静雄さんと比べれば喧嘩をすることも血をつけて帰ってくることも減ったんだから、まったく構わないけれど。

気付いた変化に小さく微笑んで空を見上げれば、きらきらと輝くまぶしい太陽。
今日はぽかぽかしてるし、静雄さんは仕事でいないから少し大変になるけど、久々にお布団でも干そうか――…なんて考えていた時。


「お、おおう…」


まだ見慣れたとは言えない、けれど確かに見覚えのある少女たちの姿に、わたしは一瞬で目を奪われた。

い、いやいや、別にね、こういうのはね。個人の自由だし、わたしにだって偏見はない。
だけど流石に、公衆の面前でちゅーっていうのは、どうかなー…なんて、お姉さんは思ったりもするわけでして。

何だか火照ってきたような気のする頬に手を当てながら、少女たち――…クルリちゃんとマイルちゃんから目を反らす。
とと、とりあえずこういうのっていうのは、あんまり見てはいけないような気がする。ので、踵を返して違うルートから目的地に向かおうとしたん、だけ、ど。


「はいはーい。ちょおっと君たちー」


は。
2人に背を向けた瞬間聞こえてきた声に、バッと勢いよく振り返った。

…ああああああ、どど、ど、どうしよう!


「女同士ってどうなの?噛み合わないじゃん。男にもてないからそんなことやってんの?」

「俺らが相手してやってもいいよー」

「代わりに、黒バイクの居場所を教えてくれたらねぇー」


…ああいうのを、卑劣っていうのだろうか。
まだ15歳の女の子2人相手に複数の男が寄ってたかって、しかも1人は特攻服みたいなやつ着てるし…
わたしもそうだけど、わたし以上に、静雄さんこういうの大っ嫌いだろうなあ。

目の前の光景にそんなことを考えていると、無意識のうちに皺が寄っていたらしい。
わたしに気付いた男の1人が嫌な笑みを浮かべて、こちらに一歩近づいた。


「なに、おねーさんも混ぜてほしい?」


何言ってるんだろうこの人。
声に反応して顔を向けた他の男たちの視線に、眉間の皺は益々深くなる。
けど2人が絡まれているのを目の当たりにしておきながらスルーなんて、出来るわけもなくて。


「…あの、そういうの、よくないんじゃないですか」

「ああ、仲間はずれは良くないって?」

「…は?」

「大丈夫大丈夫、お姉さんもちゃーんと混ぜてあげるからさ!」


もう一度言う、何を言ってるんだ。
そんなことを思いながら男たちの後ろに目をやれば、2人がわたしを見て目を丸くさせていた。
そりゃね、わたしだってびっくりしたよ。まさか知っている子が公衆の面前でチューしてて、それきっかけに絡まれるだなんて思わなかったもん。


「おねーさんはー…大体俺らと同い年くらいっしょ?」

「俺たち今黒バイク探しててさあ。あ、もしかしてあんたが黒バイクだったり?」

「うわ、だったら俺らすげーラッキーじゃね?」

「とりあえず、黒バイクのおねーさんとこの子ら連れてどっか行こうぜ」

「一石二鳥どころじゃねえじゃん!」


ギャハハ、と品の欠片もない笑い方で男たちが笑う。
きっとこんなことになってるって知ったら静雄さんは怒るだろうし、この場を無事にやり過ごすことが出来たとしても、きっと静雄さんはいい顔をしてくれないだろう。
でもクルリちゃんたちは恐怖感からか動けないみたいだし、やっぱり放っておくことなんて、わたしには出来ないんだ。


「…クルリちゃん、マイルちゃん、行こ」

「え、」


少しずつ速くなっていく心臓に気付かないふりをして、2人の元に歩み寄る。
そうして彼女たちの手を掴んだ時、


「おいおい、ちょっと待てよ」

「何勝手にどっか行こーとしてんの?」

「俺たち、そんなこと許可してないんですけどー」


どうしてあなたたちの許可がいるの、なんてことは言うだけ無駄なんだろう。
心の中で大きなため息を吐きながら2人を見れば、彼女たちは相変わらず困惑したような眼差しをわたしに向けている。


「メイド さん?」

「驚(どうして)…」

「………」


2人の手を掴んだわたし自身の腕が、特攻服を身にまとった男に掴まれる。
どうしよう、全力出せば振り払えるかな。そのままこの手を引っ張って走れば、この状況から抜け出すことは出来るのかな。
そんなことをぐるぐる考えていると、すぐ真上から笑いをこらえたような声がする。


「まあまあ落ち着けよお前ら、この子たち超怖がってんじゃん。ごめんねえ、お詫びに、どっか行きたいとこあんなら俺らが連れてってあげるよ?」


それじゃあ、バーテン服の取り立て屋のところまでお願いします。
そう思ったことは誰にも言えないけれど、本当、切実に、この状況をどうにかしたい。
わたしはまだしも、クルリちゃんとマイルちゃんだけでも―…


「おい、兄ちゃんたち」


そんなことを思いながら2人の腕をひときわ強く握った時。
少し離れた場所から、聞き慣れ過ぎた、頼りがいのあり過ぎる、あの人の声がした気がした。


 



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テーマ「人外ファンタジー」
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