「っていうか、今日のアレってやきもちですか?」

「ぶふッ」

「ちょ、静雄さん!」


夜ご飯も済んだ午後9時半。
食後にと渡したお茶を含んだ時に言ったのが悪かったのか、むせている静雄さんにティッシュの箱を持ちながら近付けば、ゴホゴホと咳をする。
どうやら変なところに入ってしまったらしい。


「大丈夫ですか?」

「っお前…何だいきなり、っ」

「ふふ、タイミング悪かったですね。ごめんなさい」


苦笑しながら言えば手首を軽く引っ張られ、あっという間に静雄さんの腕の中に閉じ込められる。
手加減してくれてたんだろうけど、手首引っこ抜けるかと思った…!


「びっくり、した…」

「…で、あー…何だ。さっきの話か」

「あ、はい。そうなんですか?」

「…………」


む、無言のままぎゅうってされた。
後ろから抱きしめられているっていうのと、わたしの肩口に顔を埋めていることから表情は見えないけど…多分これは肯定で、照れてるんだろうなあ。


「…ふふ、」

「…何だよ」

「嬉しいです」

「…すげえイライラしたんだからな」

「トムさん相手に、ですか」

「ちげえ。トムさん相手だけど、だ」


微妙な言い方の違いだけど、そこにこめられた意味とかは、何となくわかったような気がする。
相手は上司かつ自分の先輩で…でもそれ以上に、自分の慕っている人だからこそ、手を握るに留まったんだろうな。


「新羅さんが ですね」

「ん」

「静雄さんは、わたしが思ってるよりわたしのこと好きだって言ってくれたんですよ」


数時間前の会話を思い出し、ぽつりぽつりと言葉をこぼす。
お腹に回された手にちょこちょこと指を絡ませれば、鬱陶しかったのか、握る形で動きを封じられた。


「…お前ら普段どんな話してんだよ」

「今までは別に普通の話でしたけど…最近はアレですね。やっぱ」

「何だよアレって」

「静雄さんのことばっかりです」


どこに行ったとか、こんなご飯を作ったら喜んでくれたとか。
本当はセルティもいる状況で相談をしてたりもするんだけど…それだってわたしの自信の無さからくるものだし、別に話す必要はないだろう。


「…あ、でも変な話はしてないですよ?こうやってくっついたりしてることとか」

「…それは流石に無理だ、俺も」

「ふふ、だろうと思って言いませんでした」


もう何度も思ったことだけれど、新羅さんも友達のそういう話って聞きたくないだろうしね。
同性同士でそういうことを話すのは楽しいだろうけど、昔からの友達である静雄さんのそういう面について、わたしから聞くのは新羅さんも…うん、アレだろうし。


「…で、話は戻るけどよ」

「はい?」

「お前は俺の気持ちを疑ってたと」

「!?」


どこをどう解釈したらそうなるんだ!
そんな思いでバッと後ろを向けば、少しだけ不機嫌そうな静雄さん。


「違いますっ、それは絶対に絶対に違いますっ!」

「………」

「…そんな疑いの眼差しを向けないでくださいっ」


体を反転させ、向き合うような形で座り直す。
最近気付いたけれど、静雄さんはちょっとだけ、甘えん坊なところがある。


「自分に自信がないだけです」

「…何だよ自信って」

「……わたし、静雄さんのこと好き過ぎるんです」


だからわたしは、静雄さんがわたしを思う気持ちより、わたしが静雄さんを思う気持ちの方が大きいだろうなって思ってたわけで。
だからまさか妬いてくれるだなんて、思いもしなかったんですよ。


「…ばーか」

「いひゃっ」


突然鼻をつままれて、思わず変な声が出た。
けどすぐ目の前にある静雄さんの顔からはさっき感じた不機嫌さは消えていて、わたしは少しだけ安心する。


「俺も同じこと思ってた」

「同じこと って?」

「俺の方が好きなんだろうなってやつ」


顔を挟むようにして当てた手をそのままに、静雄さんは少し目を伏せてそう言った。
その言葉の意味を聞いた瞬間はよく意味が理解できなくて、でも、


「…うあああああっ」

「!?」

「やめてっ今顔見ないでくださいっ!」


どうしよう、すごい嬉しいけど恥ずかしい!
あああ、離した手で顔を覆って正解だっ。めちゃくちゃほっぺ熱い、信じられないくらい熱い!


「照れてんのか?」

「言わないでくださいっ」

「はは、」


照れてる。
笑いながら言った静雄さんの顔を指の隙間から覗いて見れば、まるで子供のように純粋な笑顔で。


「耳まで赤くなってんぞ」

「…うう」

「かわいい」


もうこれ以上は耐えられない、と声を上げようとしたタイミングで顔を覆っていた手が外される。
当然わたしの真っ赤な顔はさらされてしまったわけで、恥ずかしいん、だけど。


「…、ん」


もうだいぶ慣れた静雄さんとのキスだけど、今日は特別優しくて、あたたかい。
そして唇はもう離れたというのに、1秒、また1秒と経つごとに、静雄さんへの愛しさがじわじわと広がっていくのだ。


「…静雄さんすきー」

「ん」

「すきーすきーすきーすきーす、」

「わかったっつの!」


わたしの口を手で覆い、赤い顔をした静雄さんが言う。
うへへ、照れてる。


「静雄さん、ここで残念かもしれないお知らせです」

「ん?」

「わたし、重いタイプかもしれません」


1人の時間がどうとか、距離感とか、駆け引きとか、そういうの全部よくわからない。
それはこれまで恋愛をした経験がないからか、静雄さんのことが好き過ぎるからかは、まだわからないけれど。


「別に残念でも何でもねえよ」

「え、」

「それだけ俺のこと好きでいてくれてるってことだろ」


わしゃわしゃと頭を撫でた静雄さんが嬉しそうに笑う。
っていう、ことは。もしわたしが重い子だとしても、静雄さんは嫌じゃないってことだよね?


「…わたし、静雄さんとずっと一緒にいるっ」

「おう」

「ずっとずっと、ずっと一緒ですよ?」

「当たり前だろ」


離すつもりとかねえから。
言いながらわたしをぎゅっと抱き締めた静雄さんの腕が、言葉が嬉しくて、わたしの肺の中には吸い込んだ彼の香りが充満する。
いちゃいちゃしてたせいで映画は見られなかったけれど、これから先ずっと一緒なわたしたちを前に、急ぐことはないと信じた。


 



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