内緒モード〈そういえば、さ〉

内緒モード【はい?】

内緒モード〈最近、紀田くんの様子が〉
内緒モード〈おかしかったりしない?〉




紀田くんと別れ、静雄さんが帰ってくるまでの数十分。
先日発覚した 田中太郎さん=帝人くん と、 ヒロ=わたし について色々話をしたあと、わたしは意を決して帝人くんにそう問いかけた。




内緒モード【様子がって…どういうことですか?】

内緒モード〈わたし、さっき紀田くんに会ったんだけど〉
内緒モード〈何かいつもと違う感じがしたから悩みでもあるのかな、って〉

内緒モード【さあ…僕には普通に見えましたけど】

内緒モード〈そっかあ…〉
内緒モード〈帝人くんから見てもそうなら、わたしの勘違いかも〉

内緒モード【最近は用があるって言って、先に帰っちゃうことが多いんですけど】
内緒モード【それ以外は特に、ですかね】




意を決して聞いてみたはいいけど…そっか、帝人くんも何も知らないのか。
まあ人の悩みを詮索するのも良くないだろうし、とりあえずこれ以上は何も聞かない方がいいかも、しれない。




内緒モード〈わかった。ありがとね〉

内緒モード【こちらこそ、何もわからなくてすいません】
内緒モード【それじゃあ、戻りますね】

内緒モード〈おっけー〉



《あッヒロさんたちやっと戻ってきたー!》
《もう、甘楽1人ぼっちだったんですからねっ!》

〈あ、甘楽さんいたんですか〉

《いましたよう!》

【ヒロさんは相変わらず甘楽さんに厳しいですねw】

〈そんなことないですよ!〉
〈普通に気付かなかっただけです!〉



――セットンさんが入室されました――



[ばんわー]

【こんばんは】

〈どうもですセットンさん〉

《こんばんはーッ》

[あ、ヒロさん]
[連日いらっしゃるの珍しいですね]

〈バイトが終わって帰ってきたんですけど、ちょっと時間があったので覗いてみましたー〉

《バイトですかあ》
《まだ8時くらいだからいいですけど、相変わらず物騒だから危ないですよね》

〈あー、そうですね〉

【最近、街に黄色い人たちがますます増えましたし】

[黄色?]

《ほんとですよねー。ハッキリ姿が見える分、ダラーズより目立ってますよね》

[ああ、黄巾賊ですか]

〈わたしもさっき見かけました、黄色いもの身に着けてる人たち〉
〈前よりも多くなった感じがします〉

[確かに、増えましたよねー]

《あ、セットンさんもヒロさんもご存知ですか?》

[ええ、まあ…昔からいますよね。あの連中]

〈わたしは友達に聞いたくらいなので、そんなに詳しくはないんですけど〉
〈とりあえずカラーギャングってことは知ってます〉

[ただ、その…なんていうのかな、最近何か、変わってきているような]

【変わってきてる?】

[よくわからないんですけど、昔の黄巾賊と違うっていうか]
[昔よりも暴力的になってる気がします]

【へえ、セットンさん詳しいですね】

〈もしそれが本当だとしたら、ちょっと危ないですね〉

《普通にしてれば大丈夫じゃないですかー?》

〈そうだといいんですけど〉




甘楽さん、もとい臨也さんの言葉に、事務所を出てからの自分の行動は正しかったのだとほっとした。
…そう、だよね。
わたしが所属してるダラーズとは違って目に見えるカラーギャングとは言え、こちらから何もしなければ大丈夫な、はず。


「ただいま」

「っ、あ、静雄さん」


とりあえずもう少し話を聞こうか、なんて考えている時だった。
玄関の方からドアを開ける音がしたと同時に静雄さんの声が聞こえ、わたしは急いでチャットの画面を開く。





《黄巾賊ってわかります?》

{さんごくしの ですか}

〈あ、すいません〉
〈わたし今日はこれで失礼します〉

[え、急にどうしたんですか?]

〈家族が帰ってきたのです〉
〈また来ますねーノシ〉

【乙です】

[お疲れですー]



――ヒロさんが退室されました――





携帯をテーブルに置き、ぱたぱたと玄関の方に駆ける。
チャットは中断することになっちゃったけど、思ったよりも早く帰ってきてくれて嬉しいなあ。


「おかえりなさい。お疲れ様です」

「お前もお疲れ」

「ふふ、ありがとうございます」


冷蔵庫から出した飲み物を彼に渡せば、お礼と言わんばかりの手のひらが頭に降ってきた。
何だか今日は機嫌が良さそうだ。


「わたし、今日大丈夫でしたか?」

「ん?」

「お仕事ちゃんと出来てました?」


グラスを傾ける彼にそう問えば、薄く笑って乗ったままの手がわしゃわしゃと動かされる。
これ、は。


「おう、よくやってくれてた」

「ほんとですかっ」

「トムさんも褒めてくれてただろ?」

「ふふ、良かったー」


実は、静雄さんとトムさんの顔に泥を塗るようなことしちゃうのが一番怖かったんだよね。
昨日からずっと抱いていた不安がやっと解放され、安堵のため息が自然に漏れる。


「明日も頼むぞ」

「はいっ」


やわらかな笑顔で言った静雄さんは相変わらず機嫌が良いらしく、そのまま屈んでわたしのおでこにキスをする。
それが嬉しくて、幸せで、どこまでも日常で。

だからわたしは、こんな時間がずっと続くと思ってた。


 



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