「……って感じで、杏里ちゃんは元気そうだったよ」

《そっか、良かった。ありがとう美尋ちゃん》

「わたしの友達でもあるんだから気にしないでよー」


また明日来るね。
杏里ちゃんとそう約束し、迎えに来てくれたセルティとともに彼女の家に戻ってきて1時間。
まあ怪我人に関して元気そうも何もないんだけど、それはこの際置いておこう。
実際元気そうだったしね。


「で、静雄は何時くらいに来るって?」

「時間はわからないですけど、今日は早めに終わるってさっきメール来ました」

《そっか、早く来てくれるといいね》

「………」


…いや、別に深い意味なんてないのかもしれないけど。
わたしが意識しすぎてるだけなのかも、しれないけどっ。


「…セルティ、何か楽しんでない?」

《まさか、純粋に祝福してるだけだよ!それに加えて微笑ましいとも思ってる!》

「…いや、これはちょっとだけ楽しんでるね」

《し、新羅!》

「やっぱり!」


あたふたした様子で必死に弁解するセルティだけど、もう何も言う気なんて起きない。
でもそれは決して怒っているとかじゃなくて、もうただ単純に、セルティのその気持ちが嬉しいからで。


「……ふふ」

《…どうしたの?》

「何か、ちょっと新羅さんの気持ちがわかった気がします」


大好きで大好きで、自慢したいけど見せたくなくて。
セルティに対する新羅さんの気持ちがわかったような気がして(静雄さんには絶対に見せられないような締まりのない表情で)言えば、彼は目を爛々と輝かせてわたしの手を取った。


「美尋ちゃんもわかってくれるかい!?セルティの魅力を!」

「いや、わたしが言ったのはそっちの意味じゃなくてですね」

「僕は嬉しいよ!セルティの魅力を語り合える人が増えた!」

「話聞いちゃいないよこの人」


実際セルティはすごく魅力的だと思うし、それはわたしもわかってるから語り合うのは苦じゃないですよ。
…というのは、言わないでおこう。
新羅さんは語り合うってよりマシンガンのようにぶっ放してくるタイプだし、圧倒されるのが目に見えてるからね。


《美尋ちゃん、静雄との惚気だったらわたしがいつでも聞くからね》

「惚気、って」

《ああ、別に変に詮索しようなんて思ってないから安心して》

「それは、大丈夫だけど…」


わたしもいつか、セルティに語れるくらいの甘い時間を静雄さんと過ごす日が来るのだろうか。
…駄目だ、恥ずかしくて頭爆発しそう。


「…っていうか今朝の時点で…」

《今朝?》

「な、何でもないっ!」


寝顔とか寝起きの声とか、い、いってらっしゃいの時とか…諸々を思い出してしまったせいか、ぽろっとこぼれた言葉を必死で誤魔化して、いた時。


「ん?」


ピンポン。
何かに気付いたような新羅さんの声に顔を上げたと同時に、玄関の方から聞こえてきたそんな音。
もしかして、と思った時には体はもう動いていて、背後からは新羅さんの小さな笑い声が聞こえた。


「静雄さん?」

「ん、ああ、美尋か」

「おかえりなさいっ」

「ここ俺らの家じゃねぇだろ」


そう言いながらもわたしの髪をくしゃりと撫でる静雄さんは何だか嬉しそうで、わたしまで嬉しくなって。
リビングからこちらを覗いていた新羅さんは何だか嫌な笑顔を浮かべていたけど、それすら嫌じゃなくて。

付き合ってるのかな、なんて思ってたわたしはすっかり静雄さんの彼女になった気でいるらしいと、その時初めて気付いた。



******



「お昼のつもりが結局夕飯になっちゃったね」

「仕方ないですよ、入院だなんて突然のことでしたし」


静雄さんが来てから数分。
苦笑しながらそう言った新羅さんの手には、ついさっき届いた宅配ピザの箱。


「…? お前昼飯食ってねえの?」

「あ、いや、入院してる友達のところで一緒に果物食べましたよ」

「それは昼飯って言わないだろ」


そもそもセルティたちの言ってた“お祝い”というのは食事のことだったから、昼過ぎにここにやってきたんだけど。
でもまあ新羅さんにも言った通り、杏里ちゃんが入院しただなんて突然のことだったから仕方ない。わたしだって心配の方が勝って空腹とか忘れてたし。


「何ですぐ食わなかったんだよ」

「え?」

「俺が来る前にお前らだけで食っときゃ良かっただろ」


少し呆れたように言う静雄さんに、一瞬怒られているのかと思った。
けど雰囲気的には怒ってるのとは違うらしいし…何で静雄さんはそんなことを言うのだろう。


「どうして静雄さんが来るのわかってるのに、わたしたちだけで食べなきゃいけないんですか?」

「だってお前腹減ってただろ」

「でも、静雄さんだってお仕事終わりでお腹は空いてるでしょう」


どうしてそんな当たり前のことを説明しているんだろう、と頭の片隅で考える。
静雄さんだって、もしわたしの立場だったらきっと食べずに待っていてくれるだろうに。


「…んん?」

《美尋ちゃんはいい子だね》

「いい子?」


やわやわと頭を撫でるセルティに気付いて見上げれば、そう打ち込まれたPDAを向けられた。
何が何だか。


「静雄は幸せ者だねえ」

「…うるせえよ」

「…?」


ニヤニヤと笑う新羅さんを鬱陶しそうに見た静雄さんは、ほんのりと赤い顔で言い放つ。
多分照れて、るんだろうけど。何でだ。


《ほら、冷めないうちに食べちゃいな》

「美尋、ちゃんと袖まくっとけよ」

「はーい」

「ポテトもあるからねー」


よくわからないけど、何だか静雄さんは嬉しそうだし、新羅さんとセルティも微笑ましそうだから何でもいいか。
セルティの言葉にピザとポテトの箱を開けたわたしたちは、多分池袋で一番平和だと思う。


 



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