病院の入り口まで送ってくれた門田さんたちにお礼を言って、数分振りに感じた重みに耐えながら病院の中を歩く。
…病院にはあまりいい思い出がないけど、今回はそうも言ってられないよね。
っていうか杏里ちゃんが入院してるっていうのに、病院が苦手だとか何とか言う気は起きない。


「…よしっ」


それでも、本来来る予定だったセルティではなくわたしが来たことで、ガッカリさせてしまうのではないかという思いはあるわけで。
軽く意気込んでコンコンと扉をノックすれば、中からは小さな声が聞こえた。


「あ、杏里ちゃーん…」

「え…美尋さん?どうして…」

「セルティ…あ、えっと、昨日の首無しライダーの代わりに、お見舞い」


わたしを見て目を丸くした杏里ちゃんは、その言葉にさらに驚いたような表情をした。


「…えーと。首無しライダーって、セルティっていうんだけど。1年半くらい前からの知り合いで」

「そうなんですか?」

「うん、今日もちょっと前までセルティのところにいたの」


ここいい?と椅子を指しながら聞けば、「もちろんです」という反応をもらえた。
セルティじゃなくわたしが来たことでガッカリされるんじゃないかって不安だったけど、どうやら杞憂に終わったらしい。


「セルティもお見舞いに来ようとしてたんだけど、あの姿じゃ病院には入れないからわたしが代わりに行くって言ったんだ」

「ふふ、そうだったんですか」

「…あ、そうそう、お花とか食べ物持ってきたの。食事の制限とかないよね?」

「はい。わざわざすみません、ありがとうございます」

「いえいえー」


お見舞いの品が入った袋をガサガサと鳴らしながら、病室特有の長いテーブルに果物やお花を並べていく。
うん、スペース的にも、やっぱりアレンジメントフラワーにしてよかった。


「あの、美尋さん」

「んー?何?」

「昨日は、ありがとうございました」


言いながら頭を下げた杏里ちゃんに、今度はわたしが目を丸くした。


「いやいや、わたし何もしてないよっ。むしろ昨日あの場にいた人間の中でわたしだけが何もしてないっていうか、」

「そんなことないです。守ってくださって、ありがとうございます」


嬉しそうに目を細めて言うこの子は、何のことを言ってるんだろうと思った。
だって門田さんの言葉を聞いた渡草さんが斬り裂き魔の男を撥ねて、それで―…


「…やっぱりわたし何もしてない…」

「え?」

「めちゃくちゃ足手まといだった…」

「そ、そんなっ」

「ごめん、わたし頭で考えるより先に体が動いちゃうタイプみたいで…」


たまたま静雄さんとセルティが来てくれたから良かったけど、あともう少し遅かったら、抱きしめてたわたしだけじゃなく杏里ちゃんまで怪我をしてたかもしれない。
…本当、わたしって考え無しだなあ。


「わたしすごく嬉しかったんです」

「え?」

「だから、そんな顔しないでください」


そんな顔ってどんな顔だろう。
一瞬考えたけど、杏里ちゃんにそう言わせるくらいだからよっぽど暗い顔をしてたんだと思う。
…ああもうっ、怪我人に気を遣わせてどうするのわたしっ。


「えっと、紀田くんと帝人くんには入院してること教えたの?」

「はい、2人とも何時間か前に来てくれて」

「え、学校は?」

「サボっちゃったみたいです」


杏里ちゃん自身のことではないとは言え、“サボる”という単語が彼女の口から出たことが意外だった。
なるほど。紀田くんも帝人くんも、本当に杏里ちゃんのことが大事なんだなあ。


「…ふふ。良かったね、杏里ちゃん。」

「え?」

「学校サボってまで来るだなんて、すっごく大切に思われてるって証だよ」


わたしの言葉に一瞬目を丸くした杏里ちゃんだけど、すぐに恥ずかしそうに、でも嬉しそうに笑う。
…っていうか、


「何でわたしには連絡してくれないのっ」

「え、あ、す、すいません!」


美尋さんも疲れてるだろうと思って、それで。
…なんて、そんな風に焦ったように言われると、そこはかとなく感じた疎外感とかも、どうでもよくなってしまうんだけど。


「何かあったらいつでも連絡して、頼りないけど力になれることは何でもするから」

「…はい、ありがとうございます」

「約束ねっ」

「はい」


指きりげんまん。
まるで子供みたいに指きりをしたわたしたちは、看護婦さんが来るまで他愛もない話に笑い合った。


 



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