「…何してんだ?」
仕事が終わり、新羅の家のリビングに入った時。
想像もしてなかった光景を目にして、ついそんな言葉が漏れた。
「やあ静雄、お疲れ」
「あっ静雄さん!ちょっと待っててくださいね!」
「いや、それはいいけどよ…」
これ、どういうことだ?
ゲームをする美尋とセルティの向かいのソファーに座り、コーヒーを持ってきた新羅に問う。
別にゲームをしてるのが悪いわけじゃねえ。
…ただ、こんなことになるとは思ってなかったってだけだ。
「美尋ちゃん、セルティとすぐ仲良くなったよ」
「…そうか」
「セルティも妹みたくかわいがってるし」
「そうみたいだな」
「あああセルティずるいっ」
まさか、と言うのはおかしいかもしれないが、はしゃいだりするような奴だと思わなかったから、正直少し驚いた。
昨日出会ったばかりだから美尋のことなんて全然知らねぇけど、何つーか、年不相応に落ち着いてたし。
…けど、こいつだって高校生なわけだ。これが普通だよな。
《また私の勝ちだな》
「うあー…悔しい…」
《まあ左手はほとんど使ってない状態だから仕方ないよ。……もう一回だけやる?》
「………」
どうやらゲームで負けたらしくうなだれる美尋の背中を、セルティが優しく叩いてなだめている。
こいつ意外と負けず嫌いなのか、なんて思っていると、美尋が突然俺を見た。
「…静雄さん、」
「ん?」
「あと一回だけやっていいですか?」
15分くらいで終わるので!
真剣さもありながら申し訳なさそうな顔で言う美尋に、思わず笑ってしまいそうになった。
「おう、いいよ」
「ほんとですか!」
「セルティさっさと勝っちまえよ。俺も腹減ってきたしな」
「ちょっ静雄さん!」
《了解した》
「セルティひどい!」
絶対負けない!と言いながら向き直り、真剣な顔で画面を見る。
両親が亡くなっていると聞いた時は正直同情もしたが、こいつなりに頑張ってんだな、なんて思うと、テレビを見つめる真剣そのものな眼差しにも安心する。
「し、静雄…」
「あ?何だよ」
「君のそんな穏やかな姿は初めて見たよ!」
「うるせえ」
にやにやっつーのかわからねえけど、とにかく笑っている新羅が鼻についたから軽く殴っておいた。
穏やかって何だ、いつもと変わんないだろ。
「いたた…いやあ、それにしても美尋ちゃんは本当にいい子だよね」
「………」
「是非とも僕らの養子にほしいくらいだよ!」
「はあ?」
「ああ大丈夫、安心して」
何ふざけたこと言ってんだ、と言おうとして遮られる。
「もう断られたから!」
「言ったのかよ」
「だってセルティも気に入ってるし。いい子だし」
「だからって何で養子って発想になるんだよ」
こいつはつくづくよくわかんねえ、なんて考えながら、美尋の声を背にぼーっとテレビに目を向ける。
…セルティ、明らかに手ぇ抜いてんじゃねえか。
******
「それじゃあお邪魔しました!」
《またいつでも遊びにおいで》
「うん、またゲームやろうねっ」
《今度は負けないよ》
予定の15分を少し過ぎ、美尋の勝利によってゲームが終わった。
玄関まで見送りに来た2人に礼を言いつつ、セルティと話す美尋は本当に年相応といった感じで、今日1日で随分打ち解けたことがわかる。
「2日続けて悪かったな。セルティもありがとよ」
《気にするな。美尋ちゃんならいつでも預かるから》
「預かるって、何か違う気がするんですけど…」
「いーや美尋ちゃん、僕たちいつでも歓迎するよ!」
セルティも喜ぶしね、と笑いながら言う新羅とセルティに、美尋は嬉しそうな笑顔を見せる。
新羅と2人で大丈夫だろうかと最初は思ったが、楽しかったみたいだし何よりだ。
「じゃあまたな」
「またお邪魔しますねー」
《気をつけて》
「楽しんでおいでね」
三者三様の別れの言葉を言って、エレベーターに乗り込む。
1階、また1階と下降する中、嬉しそうに笑う美尋が目に入った。
「最後に勝ててよかったな」
「はい!」
「また来てやれよ。あいつらも喜ぶし」
さっき以上に嬉しそうな声がして、頬が緩むと同時に美尋の頭の上に手が伸びる。
その笑顔に、こいつを誘って、そして15分待ってよかったと密かに思った。