ここ数日ログを見るだけにとどまっていたけれど、今日こそはちゃんと参加しよう。
そう思いながらチャットの画面を開けば、そこには誰もいなかった。



――ヒロさんが入室されました――



〈こんばんは〉
〈誰かいますか？〉



――田中太郎さんが入室されました――



【あ、ヒロさん】

〈太郎さん、こんばんはー〉

【こんばんわ、お久しぶりですね】
【最近忙しかったんですか？みんな心配してましたよ】

〈すいません、色々バタバタしてて〉



――セットンさんが入室されました――



〈あ、セットンさん〉

［ばんわー］

〈お久しぶりです。ご心配おかけしたみたいですみません〉

［あーいえいえ、大丈夫ですよ］
［それにしても、この時間に参加するの珍しいですね］

〈同居人がまだ帰ってきてないんです〉

【同居人？恋人か何かですか？】

〈あー…いえ、恋人ではないです〉



――甘楽さんが入室されました――



《あらら、皆さんおそろいですね〜》
《ヒロさんお久しぶりですっ！》

〈………〉

【何で無視ですかｗ】

〈すいません。お久しぶりです〉


内緒ﾓｰﾄﾞ《今日はシズちゃんまだ帰ってないんだ？》

内緒ﾓｰﾄﾞ〈多分そろそろ帰ってきますけどね〉


《そうそう、知ってますか！今日の通り魔の被害者、あの『東京ウォリアー』で、東京災時記書いてた人らしいですよ！》

〈え、〉

【へー、雑誌の記者さんなんですか】

［……え、本当ですか？］

《もー、わたしが嘘ついたことなんてありましたっ？》

［無事なんですか？］

《なんかなんかー、意識不明の重体らしいですよ！よくわかりませんけど、刺し傷以外にも、なんだか体中に擦り傷があったって。》
《でも、その傷はもうかさぶたになってたから、きっと昼ごろに受けた傷なんだろうって話ですよ！》

〈昼頃…〉

［そうですかー］

【？ ２人とも知り合いなんですか？】

［あ、いや……その記事のファンだったんですよー］

〈わたしもそんな感じです〉

【へえー。今度読んでみようかな】
【それにしても、最近本当に通り魔怖いですよね】

〈そうですねー…〉

《女の子の１人歩きは危ないですねー》

〈記者さんが襲われた時点で男性も危ないんじゃ…〉

［うーん。警察にはがんばって欲しいですよねえ］



――罪歌さんが入室されました――



《キターーーッ！》

［あ］

【あれ？】

〈え〉

｛斬った｝
｛今日、斬った｝

《斬りたいのはこっちだってんですよ！もー！》

【なんなんですか？一体……ログで見かけましたけど】

《ここんとこ、池袋関係の掲示板やチャットを荒らしてる奴です！》

〈…怖いですね〉

［罪歌さん、ばんわー］

｛人、斬った。でも、まだ、駄目｝

《無駄ですよセットンさん。こっちのレスには反応しないんです》

［プログラムかなんかですかね…］

｛もっと、愛さないと｝

《そうかもしれません》

｛強い人、好き。だから。強い人、愛したい｝

【なんだか不気味ですねえ】

《でも、前よりも少し、文章がまともになってるような……》

【確かに。アクセス禁止とかできないんですか？】

《んー。やってますよ……でも、駄目なんです》

｛もっと、斬らないと｝

［あ、そうなんですか］

《リモートホスト単位でアク禁にしてるんですけど、すぐに別のホストから入ってくるんです》

【？プロキシですか？】

｛近づかないと｝

《んー、串でもなさそうなんですよね》
《ただ、共通してるのは、全部池袋周辺のホストから接続してます》
《だから、犯人がこの辺に住んでる奴って可能性は高いと思います》
《もしかしたら、漫画喫茶をハシゴとかしてるのかも》

｛強い人に｝

［他のとこも対応に苦慮してるみたいですねえ］

【…でも、人を斬ったのなんだのって】

《……あ、太郎さんもそう思います？》

【通り魔そのものだったりして】

《あはははは。それナイス》

〈やめてくださいよっ〉

［……でも、そう考えたくもなりますよね。どう見ても異常ですもん、これ］

｛斬る続ける｝

【斬る続けるって】

｛強く、なる｝

［……本当に、切り裂き魔と関係あるような］

《そう言えば……わたしが新しい被害者が出たっていう日に必ず出てますよね》

【必ずっても、まだ二回じゃないですか】

《じゃあ、やっぱり妖刀ですよ！妖刀がキーボードをカタカタ打ってるんですよ！》

〈気持ち悪い…〉

［化け物はネットなんかやらないでしょー］
［ヒロさん、大丈夫ですか？］

〈…すいません、大丈夫です〉

《やだなあ、セットンさん！呪いのメールとか知らないんですかー？》

［いや、知ってるんですかって言われても……］

｛もっともっともっともっともっともっともっともっともっと｝

【でもこれ、落ち着くまでいったんチャットから退室したほうがいいんですかね】

《あ、大丈夫ですよ。いつもどおりなら、そろそろ退室すると思いますから》

｛最後に、近づく、斬る、私、愛する｝
｛目的、見つけた、愛する、見つけた、ひとり｝

［だといいですけど］

｛静雄｝

｛平和島｝
｛平和島、静雄｝

〈え〉

｛平和島平和島平和島平和島平和島平和島平和島平和島平和島平和島平和島｝
｛静雄静雄静雄静雄平和島平和島平和島平和島平和島平和島平和島平和島静雄静雄静雄｝

【え？静雄さんの知り合いですか？】

〈なんで静雄さんのこと、〉


内緒ﾓｰﾄﾞ《美尋ちゃん、内緒モード》

内緒ﾓｰﾄﾞ〈あ、すいません……〉
内緒ﾓｰﾄﾞ〈あの、これなんなんですか〉

内緒ﾓｰﾄﾞ《俺だってわからないよ》


｛静雄、静雄、静雄｝


内緒ﾓｰﾄﾞ【……臨也さん】

内緒ﾓｰﾄﾞ《……言いたいことは分かるけど、こっちが聞きたいなあ》


｛母｝
｛母の望み、それ、私の望み、同じ｝
｛母が人を愛するから、私も愛する｝
｛彼女、何処、何処、誰｝
｛強い人、愛する、母の望み、私も愛する｝
｛愛する愛する愛する愛するその為にその為に生まれた生まれた生まされた私私我我我｝


内緒ﾓｰﾄﾞ《ちッ、シズちゃんの関係者か……？》
内緒ﾓｰﾄﾞ《いや……シズちゃんがこんなウザい奴を生かしておくわけないか》

内緒ﾓｰﾄﾞ【とりあえず、落ちた方がよさそうですね】


【じゃあ、一旦落ちます――】

［あ、じゃあ私もー］



――罪歌さんが退室されました――

――太郎さんが退室されました――



［ありゃ、ちょうど……］

《どっちにしろ、今日はこれで解散ですねー》

［はいなー］
［おやすー］

《おやすみなさい〜》

〈おやすみなさい〉



――セットンさんが退室されました――



内緒ﾓｰﾄﾞ《大丈夫？》

内緒ﾓｰﾄﾞ〈…静雄さんに電話します〉

内緒ﾓｰﾄﾞ《そ》


〈それじゃあ、わたしもおちます〉
〈おやすみなさい〉

《おやすみなさーい》



――ヒロさんが退室されました――

――甘楽さんが退室されました――



――現在、チャットルームには誰もいません――

――現在、チャットルームには誰もいません――

――現在、チャットルームには誰もいません――

　　　　　　　・
　　　　　　　・
　　　　　　　・

▲　▼