【妖刀?】

《そうです、妖刀!知ってますか太郎さん?ヒロさんも》

〈いや、全然わからないですねー〉

【知ってるかって言われても……セットンさん、そういうの詳しいんじゃないですか?】

[妖刀ですかー村正とかみたいな?]

《違いますようセットンさん!
あれは持ってると不幸が押しかかるってタイプの奴じゃないですかぁ。ああいうのとは別の奴です!もうマンガみたいに、持ったらその刀に操られて人をズバズバーッと斬っちゃうのですよう!》

[いや……そういうやつの名前って、たいていムラマサですよね?]

【ムラマサブレード?】

[首をはねられた!]

【ウィザードリィ?ウィザードリィ?セットンさん、ゲーマーですね】

〈皆さん詳しいんですねー〉

《ああんもう、脱線しないでください!》

[あー、すんません]

【すいません甘楽さん。ヒロさんも】

〈ああ、全然大丈夫ですよ!〉

《いいですか!今、池袋は妖刀のうわさで持ちきりなんです!夜な夜な現れては凶刀を振るう、謎の殺人鬼!まだ死人は出てませんけど、日本刀を使って人の体をばっさばっさと袈裟斬りに!》

【いや、袈裟斬りだと普通死ぬんじゃ…】

《手加減した浅さで斬るらしいですよ!中には腕とか刺された人もいるらしいです!》

〈でも何でわざわざ日本刀を使うんでしょうね。日本刀なんて目立つだろうに〉

【包丁の方がきっと目立たないですよね】

〈そうですよねー〉

[ただの通り魔じゃないですか]

《もう、そんなんじゃないんですって!日本刀ですよ日本刀!それがもう、人間離れした動きで、もう逃げる間もなくズバッて斬られちゃうらしいんですよーもう!きっともう人間の仕業じゃないんですよ!》

〈人間じゃないって…〉

[だからって、なんで妖刀?]

《えへへ、ここだけの話ですけど……被害者の1人が見たらしいんですよ。自分を斬った奴の顔を見たらー、なんかもう、ヤバかったって》

【ヤバかったって?】

〈どんな感じだったんですか?〉

《もう、なんか目が赤く光っちゃって、意識が何かにのっとられてるみたいで、もー吸血鬼にかまれて支配された人間みたいだって!》

[じゃあ、吸血鬼なんじゃないですかw]

《やっだなあセットンさん!吸血鬼なんてこの世にいるはず無いじゃないですか!》

[……]

《うそですよ、う・そ☆セットンさん、怒らないで!》

[いや、怒ってませんよー(怒)]

【怒ってる怒ってるw】

〈あーあww〉

【でも、首なしライダーが実在するんですから、妖刀も実在いるかもしれませんねえ】

[首なしライダーですか。こないだもテレビで特集やってましたね]

〈えっ、そうなんですか?見逃した!〉

【空を飛ぶ緑色の女の人とかと一緒に特集されてましたよ。オカルト番組で】

《セットンさん、首なしライダーのテレビとかやってると必ずチェックしてますよね!》

【ヒロさんもですよね。ファンなんですか?】

〈わたしはファンっていうのとは違いますけど…でも、首なしライダー大好きです!〉

[ええと、一緒に住んでる相方の男が大ファンで]

【相方?え、もしかしてセットンさん、結婚なされてるんですか?】

[いや、結婚はまだ…]

《じゃあ同棲ですか!?キャー!》

〈わー、素敵ですね!〉

[相方ってだけで、どうして恋人になるんです……っていうか、もしかして私の性別、わかってます?]

〈女の人じゃないんですか?〉

【え、女性……ですよね?】

《話し方で丸判りですよ!女性らしいけど、ネカマほど露骨じゃないですしー》

【もしかして、今まで気付かれてないと思ってたんですか?】

[さてと。明日は早いんでそろそろ寝ますー。じゃ、おやすー]



――セットンさんが退室されました――



【あ、逃げた】

《逃げましたねー》

〈じゃあわたしもそろそろ失礼します〉

【あ、お疲れ様ですー】

《妖刀に乗っ取られないように気をつけてくださいね☆》

〈もう、縁起でもないこと言わないでくださいよー!〉
〈それではっ ノシ〉



――ヒロさんが退室されました――







「…静雄さん、最近池袋に斬り裂き魔が出てるって知ってます?」

「斬り裂き魔?何だそりゃ」


お風呂から戻ってきた静雄さんにそう声をかければ、予想していた通りの答えが返ってきた。
…ふむ。わたしも時間がなくてそんなにニュース見てないから、全然知らないけど。


「日本刀を使った通り魔みたいです」

「日本刀?そんなん目立つだろ」

「ですよねぇ。手加減した浅さで斬ってるから、まだ死人は出てないらしいんですけど」

「それがマジなら気をつけろよ」


お前無用心だし。
飲み物を飲んで言った静雄さんに「そんな都合よく刺されたりしませんよ」と笑えば、軽くほっぺを突つかれた。


「前にもそんなようなこと言ってストーカーされてたじゃねぇか」

「あー………そう、ですね」

「まあ今は早くに帰れてるから大丈夫だろうけど、気をつけろよ」


自由登校の期間に入り、学校があった頃のように夜に帰ることは少なくなった。
…とはいえまだ陽が短いから、17時とかになったらまあまあ暗いんだけどね。


「気をつけます」

「遅くなりそうな時とかは一緒に帰れるようにすっから、連絡しろよ」

「はーい」


素直に返事をすれば、静雄さんは満足気にわたしの頭を撫でる。
この人がいれば、きっと大丈夫。そう心から思えたから、わたしもつい笑ってしまった。


 



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