「……迷惑 かあ」


まーくんには拒否られるし、跡部くんにはあんなこと言われて逃げて来ちゃったし。もう、本当なんなんだろう。


「……はあ」


あれからすぐに駆け出したわたしは、行くあてもなく走り、適当な芝生にしゃがみ込んだ。
お腹が痛い。気持ちが悪い。寒くて悲しくて、目の前がちかちかして、つらい。


「、う…」


不安定になってるのかな。
色んな感情がごちゃごちゃになって、なんかもう、安定しない。
これだから生理ってやつは嫌なんだ。情緒不安定なんていいことなんてひとつもない、みんなぐちゃぐちゃになっちゃうから、だいきらいなんだ。


「……、っ」


ああもうだめだ、最悪。
泣きたくなんかないのに勝手に涙出てくるし、お腹痛いし、悲しいし、寂しい。
わたしはこんなことするために合宿に参加したわけじゃないのに、どうしてちゃんとできないんだろう。


「あれ、芽衣子?」

「あ、ほんまや」

「どうしたんだよしゃがみ込……って、え、なに、お前泣いてんの?」


うわあああああ、もう、なんなの本当。なんで見つかるの、しかもよりによって氷帝の人に。
そう思ってごしごしと目をこすり、なんでもない風を装う。


「ああ、あかんあかん。そないこすったら目傷つくで」

「……、」

「ほら、このタオルまだ使ってへんから、これ使い」


そう言って忍足くんが真っ白なタオルを差し出したけど、受け取りたいとは思えなかった。

だって受け取ったら、目元に当てたりしたら、わたしがつらくて泣いてることを認めるような気がして。
わたしが洗って用意したそのタオルが目の前にあるのに、わたしの頑張りはそのタオルにこもってないような、そんな気がして。


「なに意地張ってんねん。ほら、かわええ顔が台無しやで」

「う、う」


いつまでも受け取らないわたしにしびれを切らしたのか、涙をぬぐうように、忍足くんが優しくタオルを当ててきた。
あああ、もう、がっくんも焦って頭撫でてくるし。


「あー…岳人、とりあえず幸村か柳呼んでき」

「お、おう」

「や、だ…ッ」


聞こえてきた2人の名前に、つい反射的にそんな声が漏れた。


「呼ばないで、っ…2人も、戻っていいから、」


大丈夫だから。
とぎれとぎれになりながらもなんとかつむげば、がっくんが困ったように忍足くんに視線を向けるのがわかった。

きっとわたしが情緒不安定だから。
いつもだったら言い返せることも言い返せないで真に受けて、こうやって泣いちゃってるのは、全部わたしの情緒不安定のせいだから。

けど幸村くんや柳くんが来たら、絶対に泣いてる理由を問いただされる。この期に及んであの2人に嘘を吐けるほど、わたしは強くない。


「それなら仁王呼ぶか?彼氏なら大丈夫やろ?」

「は…、?」


彼氏って、どういうこと。
忍足くんの言ってる意味がわからなくて困惑していれば、少し落ち着いたらしいがっくんが「お前ら付き合ってんじゃねーの?」と問いかけてきた。


「付き合 って、ない……いとこ、」

「…え、お前らいとこなの?」

「う、ん…」

「あー…なるほどな。めっちゃ仲良えから付き合っとるんやと思っとったけど、そっか、いとこやったんか」


仲、良い。
それはきっと、昨日知り合ったばかりの人が呼ぼうと思ってしまうほどで、つい数時間前までのわたしだったらきっと、忍足くんが呼ぶと言っても、躊躇いがちにでも頷いたんだろう。

だってこんな時、いつもならまーくんがいてくれたのに。
まーくんが話を聞いて、わたしの頭を撫でて、大丈夫って言ってくれた。
会わなくなってからだって夜遅くまで電話で話を聞いてくれて、でも、わたしにはもうそれすらできなくなってしまった。


「…う、」

「ちょっ…おい侑士ッ泣かすなよ!」

「え、今の俺のせいなん?」

「そうだろ馬鹿!」

「あああごめん、ごめんな芽衣子ちゃん、俺悪気あったんとちゃうねん」

「ち、が…っ」


やばい、まーくんのこと考えたら余計に泣けてきた。つらい。
忍足くんのせいじゃないから泣き止みたいのに全然止まらないし、もう、ぼろぼろだ。

再開されたがっくんによる頭を撫でるという行為と、わたしの涙をぬぐう忍足くんの優しさにそう思った時、


「芽衣子ッ」


少し離れたところから、わたしの名前を呼ぶまーくんの声がした。
なんで、どうして。そんな困惑が届くことなく、急速に縮まる距離に。向かってくるまーくんに。


「……っ」


耐えられなかったわたしは、まーくんからも逃げ出した。



  


第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -