認識が甘かったのかもしれない。
動けば気は紛れるだろうとか、薬飲んだから大丈夫だろうとか、体冷やさなきゃ大丈夫だろうとか。
全部全部、甘かったんだ。きっと。


「…いっ…た、い…」


どうしよう。
薬も規定量飲んだし、ジャージだって羽織ってる。
食堂出てからすぐ部屋戻ってインナー何枚か着たから、この時期ということを考えれば暑すぎるくらいの格好のはずだ。

なのに、


「うあ…」


痛むお腹を抑えようにも、両手にはドリンクのカゴとタオルのカゴ。
くそ、動けば気が紛れるとかマシになるとか最初に言った人誰だよ。信じたらこのざまだよ。

そう思いながらも、動かないわけにはいかない。
ミニゲームの終わりを告げる笛の音に急かされながら、重い足を引きずってコートへと向かった。

えーと……ジャッカルくんにブン太に、宍戸くんと鳳くんか。よし。


「おおとり、くん」

「あっ、はい?」

「お疲れ様。これ、宍戸くんとうちの2人にも渡してあげて」

「はい、ありがとうございます」


4人分のドリンクとタオルを渡し、素早く踵を返す。
…う、ん。すごい緊張したけど、鳳くんがいいこで良かった。

これで4人には渡したから、あとは「おい芽衣子っ!」


「わ、びっくりした」


鳳くんたちとミニゲームを行っていたブン太が、大声でわたしを呼んで駆けてきた。
どうしたんだろう。


「タオルとドリンクなら、ブン太の分は鳳くんに渡したよ」

「あ、マジか。うん、サンキュ」

「……?」


タオルとかもらいたかったんじゃないのかな。
ブン太の分は鳳くんに渡したって言ったのに、鳳くんのもとに行くわけでもなく立ち尽くすブン太に、どうしたのかと首を傾げる。


「お腹空いたの?」

「いや、」

「?」

「…お前、大丈夫か?」


どうしたんだろう。
様子のおかしなブン太にそう違和感を覚えた瞬間放たれた言葉に、どくりと心臓が鳴った。

どう答えよう。いや、大丈夫以外言える言葉なんてないんだけど、「芽衣子ー」


「…あ、がっくん」


隣のコートでミニゲームしてたんだ、早くタオルとか渡してあげよう。
そう思ってブン太を見るも、なにか言う気配もない。ので、


「よくわかんないけど、とりあえず大丈夫だから」


ありがと。
短く言って歩き出せば、「あちー」と言いながら手で顔を仰ぐがっくん。


「ごめんね遅くなって。はい」

「おーサンキュー」

「お疲れさん、芽衣子ちゃん」

「おし たりくん、も。お疲れ様」

「おお、今日はちゃんと話せるやん」

「警戒されてるにはされてるけどな」

「昨日と比べたらだいぶマシになっとるからええねん」


よくできました、と言いながら忍足くんがわたしの頭を撫でた。
正直、とてもびくびくしてますわたし。


「谷岡さん、お疲れ様です」

「あ、柳生くん」


お疲れ様。
そう言ってタオルとドリンクを渡せば、お礼を言ってくれた柳生くんが笑う。

…あれ。柳生くんがいるってことは、


「まーくんは、」

「ミニゲームが終わると同時にどこかに行ってしまったんです」

「………」


…次は取りに来いってちゃんと言ったのに、なんでわたしが配ってる時に限ってこないの。
地面に置いて好きに取っていけって時は予備の2つが絶対余ってるから、取りに来てるみたいなのに。


「…ほかの人に渡すついでに探して、会えたら渡すけど。まーくんが戻ってきた時にボトル持ってなかったら、柳生くんから渡してあげて」

「ええ、わかりました」


こういう時のために、2つとはいえ多めに作っといて良かった。
そう思いながら柳生くんにまーくんの分のドリンクとタオルを渡し、辺りを見回すもまーくんの姿は見えない。


「谷岡さん」

「なに?」

「今日の仁王くんはいつもと少々違うんですが、なにかあったんでしょうか?」


あ、やっぱりまーくん普段と違うんだ。
朝食の時の座る場所とかは気まぐれかと思ってたけど……外周の後ブン太も言ってたように、練習に対しての姿勢まで違うとなると、ちょっと気になってくる。


「わかんない、けど。ブン太もいつもと違うって言ってた。外周の時は前の方走ってたみたいだし」

「練習熱心なのは大変結構なんですが…そういう仁王くんは珍しいので、少し心配になってしまいますね」


苦笑しながら柳生くんが言う。
…まったく、仕方ないなあ。


「ごめんね、まーくんが」

「そんな、とんでもないです。もし見かけたら声をかけてあげてください」

「うん」


親友に心配かけさせるなんて、なにしてんのまーくん。
眉をひそめながらそんなことを思い、痛みに耐えながらため息を吐いた。



  


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