がんばる。
そう言って幸村くんの方を振り返った時にブン太とジャッカルくんと柳生くんと切原くんがいたことには驚いたけど、どうやらわたしがコートを出て行ってから色々なことがあったらしく(詳しくは教えてもらえなかった)、どうやらわたしはすごく心配をかけていたらしい。申し訳ない。


「そんじゃ、頑張ってこい」

「う、ん」

「心配しなくてもお前らなら大丈夫だ」

「そうかな…」

「大丈夫ですよ谷岡さん。応援しています」

「ありがと、う。うん」

「そんじゃ最後に、元気が出るおまじないハイパーっす!」


三者三様の激励の言葉をもらって、最後には切原くんが思い切り頭を撫でてくれた。
もはやただわしゃわしゃやってるだけの気がするけど、これも切原くんの優しさなんだろう。しかもハイパーな。


「仁王に谷岡さんを嫌いになれるわけなんかないんだよ。だから安心して行っておいで」

「…う、ん」


本当かなあ。
そう思いながらも、ぐしゃぐしゃになったわたしの髪を直す幸村くんが優しい顔で笑うもんだから、


「まーくん、っ」


たくさんの勇気に背中を押されて、まーくんを呼んだ。
その瞬間の顔といえば今まで見たことがないくらいに、安心と罪悪感に満ち溢れていて。


「芽衣子ッ」

「ぐ、っ」


びっくりするくらいのスピードで駆けてきたまーくんがいきなり抱きついてきて、反射的にそんな声が出た。
く、くるしい。


「ごめん、」

「…、」

「ごめん、ぜんぶ、嘘じゃから」


痛々しさを感じるくらいの声でそう言ったまーくんは、ぎゅうぎゅうとわたしを抱き締める。
そんなに強くしなくたってもう逃げないのに、まーくんはまだ、なにかを怖がってるみたいだ。


「まーくん、」

「…ごめん、」

「いや、ちょっとだけ、くるしい」

「…………」


空気を、壊してしまったのだろうか。
そう思いながらまーくんの顔を見れば、ごめん、と言って少し力が緩んだ。離すつもりはないらしい。


「俺、たぶん、嫉妬してたんじゃ」

「………」

「芽衣子は昔から俺がいなきゃ駄目じゃったのに、なんかいつの間にか、俺の知らんところでほかの奴らと仲良うなって。それが良いことってのもわかっとったけど、でも、寂しかった」


緩んだばかりの腕の力が強くなって、また少し苦しくなった。
でもこんなまーくんを見るのは初めてで、わたしはもう、なにも言えなくて。


「なんか芽衣子がどっか行く感じして、嫌で、避けてた」

「………うん」

「ひどいこと言ってごめんな」


あんなのちっとも思っとらん。
言いながらわたしの肩口に顔を埋めたまーくんが、消え入りそうな声でつぶやく。


「芽衣子のこと好きで、大切なんじゃ」

「…うん、」

「…仲直り、してくんしゃい」


初めて聞く不安げなまーくんの声に、なぜか心臓が高鳴った。
どうしてかなんてわからない。でも今は、それを考えるよりも先に、やることがある。


「…気付かなくて、ごめんね」

「芽衣子はなんも悪くなか」

「そんなことないよ。ほかのことには気付いてたのに、まーくんがそんな思いしてるってことには気付けなかった」


だから、ごめんね。
そう言ってまーくんのユニフォームをぎゅっと握れば、わたしと同じ香りがする。


「すごく、かなしかった」

「…うん」

「あんなこと初めて言われて、まーくんが違う人に見えた。こわ かった」

「……うん」

「 だから、嘘でよかった」


息が詰まりそうになるくらいにつらかった。
今までの時間はなんだったんだろうって思うくらいに悲しくて苦しくて、きっとああいうのを、絶望っていうんだと思う。


「わたしも、まーくん好きだよ」

「…ん」

「でも、立海のみんなとも、氷帝の人とも、仲良くしたい」


まーくんの友達だったみんなが、いつの間にかわたしにとっても、大好きな人たちになっていた。
わたしとまーくんのことをここまで心配してくれるテニス部のみんなが、いつの間にか大好きで、大切になっていた。
氷帝の人たちだって、思ってたよりもずっと優しかったから。

そう思いながら言えば、まーくんは「ん」と短く笑う。


「けど、一番安心するのはまーくんだよ」


ご機嫌取りでもなんでもなく、本当のことなんだよ。
そんな思いが伝わればいいとしっかり目を見て言えば、それはそれは嬉しそうな表情で。


「だから、仲直りしよ」

「…うん、」


へらっと笑ったわたしの頭を撫でて、仲直り、とまーくんが呟く。
その笑顔に、安心感に、お腹の痛みなんて消えてしまっていた。



  


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