まーくんの様子がおかしい。
そう気付いたのはついさっきのことだったけど、考えてみれば、確かにまーくんはいつもと違っていた。

普段なら鬱陶しいくらいにくっついてくるまーくんなのに、肝試しから戻ったかと思えばすぐに切原くんのところに行って、それ以降はずっと柳生くんのところにいて。
朝だって、いつもなら私の隣に座るはずなのに、私が食堂に入った時には私の2つ隣に座って。
ドリンクもタオルも、取りに来てはくれなくて。

なんていうか、避けられてるような気分だ。


「まーくん」

「……あ」

「あ、芽衣子先輩!」


幸村くんと柳くん、そして切原くんと一緒にいたまーくんを見つけ、わずかに離れた位置から声をかける。
…何で、見つかっちゃったって顔してんの。しかもすぐに目逸らしたし。


「まーくん、私のこと避けてるでしょ」


そう言った瞬間、予想以上に低かった声に自分でも驚いた。
けれど私が放っているであろういつもと違う空気をみんなも感じ取ったのか、誰一人口を挟んでは来ない。

そしてそれはまーくんも例外じゃなくて、いつもなら鬱陶しいくらいにくっついてくるまーくんが、話しかけてくるまーくんが、私から離れていってるのだと改めて感じた。本当、意味がわからない。

けれどそれ以上に、


「何でかは知らないけど、避けたいなら避けていいよ。私にも原因があるんだろうし、練習終わってから話す時間設ければいいだけだから。でも本当に避けたいなら、中途半端に私から逃げるだけじゃなくて、何も言われなくて済むようにうまくやって」

「………」

「今のまーくんは、ただ構って欲しくて困らせようとしてる子供と変わらないよ」


それができない人でもあるまいし、何がしたいのかわからない。
やるならやる、やらないならやらないではっきりしてほしいのに、私がそう思う性格だってことくらい、わからないまーくんじゃないはずなのに。


「…柳生くんから聞いたよ、ミニゲーム終わってすぐどっか行っちゃったって」

「……………」

「私、ちゃんとドリンクとか取りに来いって言ったよね。長くスポーツやってる身なんだから、水分補給の必要性とか私なんかよりよっぽどわかってるでしょ。何やってんの」


高くなってきた日射しを感じながら言って、だいぶ軽くなったカゴからドリンクを差し出す。
そしてそれを、半ば強引にでも渡そうとしたんだけど、


「いらん」


パシン、と払われ、ホルダーが地面を転がる。
初めての明確な拒絶に何が起きたのかわからなくて、頭が真っ白になって。
無意識にまーくんを見上げてみれば、さっきより近くなった彼が眉をひそめていた。


「…なんもわかっとらんくせに」

「……は、」

「なんなん、まーくんまーくんって子供じゃあるまいし。わざわざもらわんでもまだ残っとるし、ご丁寧に来てもらったとこ悪いが余計なお世話じゃ」


もう俺んとこ来んで。
やっと口を開いたかと思えば突然放たれたまーくんの言葉に、頭がくらっとした気がした。


「ちょっ…おい、仁王!」


その瞬間体が固まったように動かなくなって、うまく呼吸ができなくて、背を向けて歩いていくまーくんを追いかけるどころか、呼び止めることすらできなかった。
幸村くんの呼びかけにも答えず歩いていくまーくんは、こちらを振り向きもしない。


「…え、ちょっと」

「…………」

「せ、先輩?大丈夫っすか?」


張りつめていた空気を切原くんが壊してくれた。
それが合図とばかりに痛み出したお腹に顔を覗かせる吐き気に、もう立っていることすらできなくて。


「…はあ、」


一気に力が抜けてへたり込めば、3人も私と目線を合わせるようにしゃがむ。
ごめ、ん。なんか、色々と。


「…谷岡、大丈夫か?」

「…………きつ、い」


お腹も、まーくんのことも。
その言葉は飲み込んで短く柳くんの問いに答えれば、切原くんと私を除いた2人が大きなため息を吐いた。


「困ったもんだね、仁王も」

「……本当、もっとうまく嘘吐けよ」

「え?嘘って?」

「…ドリンクまだ残ってるって言ってたじゃん。あれ、嘘だよ」


切原くんの問いに答えれば、「そうなんすか?」と不思議そうな声で彼が言う。


「…まーくんは昔から、食べ物はあまり食べないくせに飲み物はよく飲むの。それに、ボトルに飲み物の影ができてなかった。厚みはそんなにないから、飲み物が入ってれば絶対に影ができるのに」


ボトルを渡してすぐに飲みだしたがっくんを見て思ったことだから、これは間違いない。
だからまーくんのあれは、絶対に嘘だ。それも下手な。

そんなことはわかっているのに、


「…うう」

「大丈夫?」

「……じゃ、ない」


かも。
余計なお世話、もう来るなと言われたことが結構きつかったらしい、今にも消えてしまいそうなくらいに小さな声で言えば、誰かが私の頭を撫でて、背中をさすって、手を握ってくれた。
しゃがんでうつむいてる状態だから誰が誰だかわかんないけど、あったかくて、何か余計に悲しくなる。


「仁王は俺たちがどうにかしてくるよ。谷岡さんもたくさん動いて疲れてるだろうから、どっかで休んでおいで」

「ああ、それがいい」

「…………」


幸村くんと柳くんの言葉に、うつむいたままで考える。
確かに疲れた。そしてそれ以上に、お腹が痛くて頭がくらくらして、吐き気がする。

けれど、


「…大丈、夫」

「え、先輩?」

「大丈夫。でき、る」


体調に関しては今更折れる気はないし、相当メンタルやられたけど、これは私とまーくんの問題であって、ほかの人には無関係だ。
昨日の朝学校で幸村くんに言った言葉を思い出して立ち上がれば、腹が立つくらいのあたたかい日射しが全身を包んだ。



  


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