「…った、」
おはようございます。
最悪の寝覚めを迎えました、合同合宿2日目の朝です。
昨日の夜は散々だった。
柳生くんの具合は回復したらしいから良かったけど、部屋に戻ったらなぜかわたしの部屋にお菓子広げられてるし、散々騒いだくせしてブン太も切原くんも幸村くんも片付けしないで寝ちゃったし、…って、いうか。
「…朝からお腹痛いってなんなの、」
昨日変なもの食べたかな、それとも知らない人がたくさんいる環境っていうストレスかな。
そう思いながら自分のお腹のあたりに手を当てて、しばし考える。
「………あ、」
……いや、「あ」とか言っちゃったけどナシ。気のせい。勘違い。間違えた。
サーッと血の気が引いていくのを感じながらも言い聞かせ、恐る恐るシーツをめくってみる。
…あ、良かった。やっぱり気のせ、
「…いッ」
……うん、まさかこのタイミングでそんなことが有り得るわけがないけど、確認は必要だよね。一応、一応ね。
よくわからない言い訳を自分自身にして立ち上がれば、目を逸らすなとばかりにお腹の痛みが主張してくる。
けどそんな、合宿のタイミングでそんなことになるわけにいかないんだよ。
そう思いながら、なぜか自分の部屋に戻らずわたしの部屋で眠る彼らを起こさないようにトイレへと向かえば、
「……さい、あく」
広がる鮮血に、眩暈と吐き気がした。
「芽衣子、それ食わねーの?」
あれからおよそ1時間後、朝食の時間。
わたしが来た時にはすでに、昨日ならまーくんが位置していたはずのわたしの左に座っていたブン太は、わたしの手を見て呟いた。
「なんかお前全然食ってなくね?」
「ちょっと今朝は食欲ないんだ。ブン太食べていいよ」
「え、マジで?」
手にしていたクロワッサンを渡し「お皿の上のも好きなだけ食べていいから」と言えば、ブン太が目を丸くする。
…やめてくれないかな、あまり見るの。
「…なに?」
「お前具合でも悪いの?」
「失礼だな」
朝はそこまでたくさん食べる方じゃないんだよ。
なんてまーくん以外にしか通用しない嘘だったけど、彼はなぜか離れたところに座ってるし、聞こえてないだろうから問題ない。
「でも本当に顔色悪いよ谷岡さん」
「…え、そうかな」
白々しくも「気のせいじゃない」とか言ってみたけど、上手に嘘を吐けている自信はない。
事実わたしは、非常に、具合が悪い。
でもこれは、絶対に知られるわけにいかない。
それはもちろん恥ずかしいという思いもあるからだけど、
「あれ、そういえば今日って何時から練習始まるんすか?」
「9時からだそうですよ」
「昨日は軽い打ち合いしかしなかったからなー」
「ふふ、今日は思う存分やっていいよ」
みんなの邪魔を、したらいけない。
ちゃんとサポートできなきゃわたしがここに来た意味なんてないんだ、それだけは、絶対にいけない。
「…谷岡?」
「え、」
「大丈夫か?」
本当に顔色が悪いぞ。
そう言いながら少しだけ心配そうな顔をした柳くんに、ここにいる、わたしを心配してくれるすべての人に。
「大丈夫だよ」
わたしはひとつ、嘘を吐いた。